【第975回】 手の甲を鍛えつかう

自主稽古では片手取り呼吸法をやるようにしている。同じ形（技）を繰り返すと形が身に着き、自然に体が動き、技が生まれるようになる。所謂、得意技になるということである。片手取り呼吸法が得意技になると精神的にも肉体的にも余裕が生まれるので新たな問題に気づいたり、新たな挑戦に挑む事ができるようになる。新しく見つけた理合や問題に挑戦するのである。まだ十分に身についていない形（技）や応用技ではこれは難しい。

片手取り呼吸法では、手を相手に向けて出して相手に掴ませて技を掛けるが、掴んでいる相手の手と己の手が接し離れないように手先を縦横縦と十字に円く返すようにしていた。これで相手との結びは切れず、手先に常に腹の重みが相手の手、体にかかり続けるのである。
しかしよく観察してみると、こちらの手と相手の手が接する瞬間、手先が円く回るまでの間に空白ができるのである。相手の手と接せず、相手と結んでいない瞬間である。

その原因と対処法が分かった。その原因と対処法は手の甲にあるのである。
これまでは手の平だけで技をつかっていたということである。確かに、手の平からは気が出るし、手の平で相手をくっつけたり、突っ張らせたりしてきた。片手取り呼吸法も手先と手の平で技を掛けてきた。しかし手を出した瞬間に相手と結ばなかったのはこのためだったのである。

手を出す際に手の甲から気を出すと相手の手の平に密着し、相手と一体となるのである。

相手の手の平や体に手の甲を密着させ、相手を導くのはただ手を操作すればいいわけではない。宇宙の営みの条理、法則に従わなければならない。くっついたり、導くのは気であるから手の平と手の甲に気を集めなければならない。それをどうするかというと水火の息である。
　水は吐く息で腹を締め、手の平に気を集める　→　手の平でくっつく
　火は引く息で腰を拡げ、手の甲に気を集める　→　手の甲でくっつく
また、手先を縦横縦と十字に書いたが、これを上記の理と重ねると次のようになる。
　縦　　→　　　横　　　→　　　縦　　→　・・・・
　腹　　→　　　腰　　　→　　　腹　　→　・・・・
　手の平　→　手の甲　　→　　手の平　→　・・・・
これを片手取り呼吸法で身につけて行けばいいだろう。

しかしもっと簡単な方法もある。それは剣の素振りである。手の平に気を入れ剣を縦に腹で振り上げ　→　手の甲に気を入れて肩と腰を横に開き更に振り上げ　→　手の平に気を入れ剣を腹で縦に切り下ろすのである。手の甲及び手の平の働きと重要性が実感できるはずである。