【第966回】 相手の力をつかう

1961年に合気道を始めた。前にも書いたように、合気道というものを知っていて始めたわけではない。偶然、合気道と言う武道がある事を聞き、また合気道道場が学校の近くにあったので通い始めたのである。だから、合気道がどのようなものなのかはほとんどわからなかった。通い始めてもよく分からないので、先輩等に聞いたが、先輩たちもよく分かっていなかったようだが、ある先輩や同僚は、「合気道は相手の力をつかって敵をやっつける武道だ」といっていた。その後、大先生の合気道とは何かのお話を頻繁に聞くようになるが、最後までほとんど理解出来なかった。合気道は宇宙との一体化であるとか、地上楽園の建設であるなどのご説明であったからである。

さて、「合気道は相手の力をつかって敵をやっつける武道だ」ということは今でも耳に残っている。無意識のうちにそうなりたいものだと思っていたようである。そうなれば敵をちょちょいがちょいと投げたり、抑える事ができるだろうから、理想の武道であると思ったのであろう。力ずくで、組んず解れつでは理想の合気道ではない。

60数年経って、多少相手の力をつかう技がつかえるようになったようである。長年の技の積み重ねと年のお蔭であると思う。
相手の力を利用して掛けるということは、それほど力をつかわなくとも強烈な技になるということであり、私の求めていた合気道らしい技ということになるということである。逆に、相手の力を利用しなければ、力づくの魄の技になるということになることも分かってきた。

相手の力を利用するとはどういうことかである。今のところ次の三つの相手の力を利用している。

  1. 相手の前足の重心を前足から後ろ足に移動させる。
    そうすると相手は重心を後ろ足から前足に戻そうとするので、この反動を利用して技につかうのである。
    そのためには、まず、体の体当たりと気の体当たりで相手の中心をつく。手先と腰腹をしっかり結び、腰腹で体当たりするのである。手先が折れたり曲がったりしないように円の動きで、己の中心線上に手を進めなければならない。更に、足底を踵→小指球→母指球とつかえば体当たりの威力を発揮し、また、その反動を感受できる。
    慣れてくれば、体の体当たりから気の体当たりで、相手を前足から後ろ足に移動させることができるはずである。過って、有川先生の受けを取った時は、手や体で押されていないのに後ろに下がっていたのを不思議に思っていた。先生の気で後ろに下がってしまっていたのである。
  2. 相手の中心を押すと相手は必ず押し返してくる。相手の中心を引くと相手は必ず引いてくる。
    相手が押し返したり、引き返してくるところを技にするのである。正面打ち一教でも片手取り呼吸法でもこれらの反動で相手の力をつかい技を掛けるのである。
    手先を息陰陽水火で進めたり引くのである。要は、相手の力をつかうために、気や心をつかうことになる。これを大先生は、「相手が引こうとしたときには、まず相手をして、引こうとする心を起こさしめて引こうとするように仕向ける。術の稽古ができてくると、相手よりも、先にその不足を満足させるように、こちらから相手の不満の場所を見出して、術をかける。この不満を見出すのが合気の道でもある。」と教えておられるのである。
  3. 手先と体を円くつかい、相手を浮き上がらせる。
    円の動きの巡り合わせで相手は上下左右に浮き上がるので、それを戻そうとする。この反動の力で技をつかうのである。相手の体勢は崩れているので一寸した力で投げたり押さえる事ができるようになる。
    過っての柔術では、関節部分に力を加えることによって、相手に苦痛を与え、相手がその苦痛から逃れようとして動き、その動き(力)を利用して技を決めていたという。
それでは片手取り呼吸法で、どのように相手の力をつかうかを見ることにしよう。
  1. 腰腹と結んだ手を腰腹から出す→相手の重心が前足から後ろ足に変わる
  2. 手は円の動きで出し、手先は伸ばす→相手は押し返してくる
  3. この反動で手を腹に引き、腹を返す
  4. 相手は引き戻そうと引っ張る→相手は突っ張る(凝結する)
  5. 手先を先に伸ばし、持たれている手を上げる(上がる)
  6. 相手の手と体は反発して、力を出してくる(頑張って来る)
  7. その力で円く手を返し決める
つまりは、相手の引いたり出したりする反動の力で技をつかうことになるわけである。正面打ち一教でも他の技でも相手の力をつかうのである。ということは、技はすべて相手との力のやり取りでつかうように出来ているように思う。相手の力をつかうようにしたいものである。