【第961回】 運動の三法則と合気道

時々、NHKのテレビ講座を見る。やさしく説明してくれるので分かりやすく、いろいろ勉強になる。たまたま、高校物理の力学の講座で「運動の三法則」をやっていたので見させてもらった。
「運動の三法則」とは、次のように説明されている。
物体の運動を説明する基本的な法則。普通は古典力学の基礎であるニュートンの運動の三法則をさす。

  1. 第一法則(慣性の法則):
    静止または等速直線運動をする物体は力が作用しないかぎりその状態を保つ。
  2. 第二法則(運動の法則、ニュートンの運動方程式):
    物体に外力がはたらくとその方向に,力に比例し質量に反比例した加速度を生ずる。
  3. 第三法則(作用反作用の法則):
    物体が他の物体に力を及ぼすとき,相手の物体は同一直線上にあって大きさが等しい逆向きの力をはたらき返す。
この運動の三法則は、科学の世界だけでなく、日常生活に於いても原理、原則、公理であり、合気道で云う宇宙の法則という事にもなる。つまり、合気道の世界でも適用されるべきだということになる。そこでこの力学物理の法則を合気道では、技をつかうに当って、実践的にどのように活用できるのかを研究してみた。

まず、第一法則(慣性の法則)である。力が作用しないときは慣性の法則が働き、力が作用するときは運動の法則や作用・反作用の法則が必要になるということである。自分が技をつかう前に相手と対峙して立つが、体は地に立つが、体の重みは下に下がる慣性が働く。体は、また、天とも結び慣性が働く。合気道に於ける、まずは天と地と結ぶということであると考える。物体である体は変わらずある。もし、体の物体を動かしてしまえばこの第一法則にはならず、別の法則になる。言葉を変えれば、この第一法則の状態から次に活動するためには次の法則にならなければならないということである。

武道であるから、ジッと突っ立ったままでいるわけいいかない。手を出したり、体を進めたりしなければならない。そこでつかう法則が第二、第三の法則となる。つまり、運動と作用反作用で動くことである。
この運動と作用反作用はどちらが先でも後でもいいようだ。また、ほぼ同時でも出来るようである。
第二の法則は運動の法則である。物体(質点)の加速度は、作用する力に比例し、向きは力の方向になるである。相手に与える手などの物体の力は物体の質量と加速度を掛け合わせたものという。この運動の方程式は、
  F = ma である。(F=物体に働く力 m=物体の質量 a=物体の加速度)
合気道の技は手で掛けるわけだから手の質量と加速度を最大にしなければならない事になる。手の質量を最大にするためには、手を重くする事であり、そのために手先と腹を結んで腹で手をつかうことが必要になるわけである。
手に加速度をつけるためには、手を腰腹と結び、また、足も顔も腰腹と結び、体が一体化し、円、螺旋で動くことである。手先、手掌は常に相手の方向をむくことになるが、これが上記の、向きは力の方向になるはずである。中心を外した技(動き)では手の力が十分働かないことは技をつかえばわかる。

第三法則は作用反作用の法則である。物体が他の物体に力を及ぼすとき,相手の物体は同一直線上にあって大きさが等しい逆向きの力をはたらき返すである。
物体に働く力は、常に2つの物体の間で力を及ぼしあうように働く。それぞれの力の一方が作用とした時、もう一方は反作用する。物体に働く力は、常に2つの物体の間で力を及ぼしあうように働き、必ずペアで現れるのである。
合気道の技をつかうに当って、作用反作用が働くところは二つある。
一つは、足と接している地、床である。体重を足から地に落とすと、必ずその跳ね返りの反動がくる。これが反作用である。地をしっかり踏めば踏むほど大きな力が足→腰腹→手先に出る。
二つ目は、相手と接触した箇所に働く作用反作用である。手を持たせたり、打ってきた手を押える時、こちらの力に対して相手はそれに負けじと返してくる。これが反作用である。こちらの作用が強ければ強いほど反作用も強くなる。
また、この法則では、反作用は作用の線上に返り、作用と等しい大きさになるとあるから、もし、持たせた手などで力を出さず、つまり力の作用がなければ相手の反作用はないことになる。手が触れるが押さない、出さないということである。肉体の手や体は動かないが、相手が動いてしまうのである。作用と反作用の力は0と0なのに技になるわけである。この作用反作用の法則ではないようである。

この運動の三法則は物体の法則である。合気道に於いては体や手の働き、所謂、魄の次元の法則という事になる。合気道は魄の稽古が大事だが、更に、気の次元の稽古が必要になるから、この運動の法則が“気”でも有効かどうかの検討が必要になる。
まず、第一法則(慣性の法則)であるが、上記で説明したように、天地と結べば慣性が働くが、その働きは目には見えない“気”であるはずなので、この法則は“気”にも有効であると思う。
次に、第二法則(運動の法則であるが、この運動の方程式は、
 F = ma である。(F=物体に働く力 m=物体の質量 a=物体の加速度)
これを気に置き換えると、
 物体に働く気の力=気の大きさ・強さx気の加速度
となる。
気には大きさ・強さがある。大きく・強ければ引っ付ける力が強い、また、凝結させる力も強い。また、気も加速度をつけてつかうことは出来る。
この気の大きさ・強さと気の加速度を掛け合わせた力を呼吸力というはずである。呼吸力が強ければ技は掛かり易くなるし、気の力が強く、勢いよく円や螺旋で加速度をつけてその気をつかえば、強い呼吸力が出るようになる事は、技づかいで明瞭である。
故に、 F = maは“気”でも通用することになるだろう。
最後に、第三法則(作用反作用の法則)である。物体の次元では、「物体が他の物体に力を及ぼすとき,相手の物体は同一直線上にあって大きさが等しい逆向きの力をはたらき返す」とあるが、物体に代えて気で技をつかってやっても同じ結果になる。故に、この第三の法則も気で通用することになる。
従って、運動の三法則は、気の次元でも有効である事になるし、気も、運動の三法則でつかわなければならことになる。つまり、幽界でもこの法則が働くということである。
しかし、神界で通用するかどうかはわからない。つまり、“魂“もこの運動法則で働くのかどうかは分からないという事である。引き続き研究したいと思う。