【第952回】 息陰陽の探究

これまで技と身体は息陰陽や息陰陽水火でつかわなければならないとさらっと書いてきた。確かに、諸手取呼吸法などは息陰陽でやらないと上手くいかないから、息陰陽は必要不可欠である。また正面打ち一教や正面打ち入身投げでも息陰陽は必須であるし、剣でも居合でも欠かすことはできない事も分かってきた事により、息陰陽は宇宙の法則であると確信したのである。
法則である以上、息陰陽には法則と理合いがあることになる。科学で解明、説明できるということである。そこで息陰陽を科学的に探究してみたいと思う。

まず、“息陰陽“をこの言葉の構成から解明してみると、息と陰陽となる。息とは言霊の”う“の吐く息であり、布斗麻邇御霊のとである。によって腹中に息が入り、腰腹と結んだ手先が腰腹に引き付けられる。これが陰である。相手が打ってくる手を出すのも、掴まれた手もこの息陰でつかわなければならないことになる。息を吐いて手をただ出せば息陽となってしまう。因みに、陰は次の働きのために待機している状態であり、陽は働いている状態であると考える。
技は息陰→息陽→息陰→息陽でつかうが、これを息陰陽と言われているのだと思う。

お陰で諸手取呼吸法も大分上手くいくようになったが、まだ十分な力は出ていない感じがするので更に探究すると次のような事が分かってきた。
まず、もう一つの息陰陽である。息陰（息・気を腹中で引く）では手（手の平）が横に拡がり、息陽（息・気を腹中で縦に落とす）では縦に出るということである。
上記の息陰陽と併せると、息陰陽は息陰で手が横に拡がりながら手先の力（気）を腰腹に引っ張り込み、息陽で横に開いた手を縦に出す。

次に、ここで一つの問題に気づいた。息陰陽の息陰では強靭な手がまだ出来ない事である。手先と腰腹がしっかり結ばないので手先が不安定で、そして力が出ないのである。
この問題を解決するためには水火が必須だったのである。つまり息陰陽と水火は対なのである。息陰陽水火なのである。
息陰で強靭な手をつくるためには、まず水火の水に働いてもらわなければならないのである。水は吐く息で縦の息であるから、手を息を吐きながら出す。一教でも呼吸法でもやっている要領であるから難しくはない。手が水で出しながら息陰で引けば、手は横に拡がり火となり強靱な手ができるのである。つまり、息陰の前に水で息と体をつかうということである。
要は、息陰陽と水火は対であって、息陰陽や水火の片方だけでは十分な力（気）が出ないという事なのである。

本来は息陰陽水火で強靭な手をつくるわけだが、息陰陽を理解するために水火抜きで探究することにする。
息陰陽になると強靭な手が出来、身体になる。武道には必須な要件である。それでは息陰陽で強靭な手をつくるためにどうすればいいかである。
上記の“う”ので腰→腹⇒肩→顔→手と息を引いていくと、手先が横に拡がり、手先、そして腕、肩、腰腹が強靭になる。手先を横に拡げないで縦に出しても、手先だけをでつかっても強靭な手は出来ない。
手は息を引いている時横に拡がりとなり強靭となり、息を吐く時は縦となりとなる。初心者は息を吐いて手を縦につかうから、十分な力が出ないし、相手を弾いてしまうのである。
これに水火を加えれば更に強靱な手ができるわけである。

これが息陰陽の形であろうと思われる大先生の写真を示す。これまでもこの写真は何度も見て来たはずだが、只、見過ごしてきた。息陰陽の目でみると貴重な写真である事がわかる。

大先生の手は、只、前に出しているのではない。引きながら出しているのである。この陰陽で相手と一体となりながら相手を投げたり、抑えられていたわけである。只、手を出すのは魄の力であり、息陰陽で真の合気の力が出るという事を教えられているはずである。