【第945回】 胸を鍛え、胸をつかう

武道では腹を鍛え、腹をつかうようにと腹を重視する。合気道でも腹と手足頭などの部位を結び腹でそれらの部位をつかうとか、腹で呼吸するとか、剣は腹で振れ等と、腹を鍛え、腹をつかうようにする。
確かに強力な力を出す場合は腹にお世話にならなければならない。腹は大事である。これは依存のないことである。

しかし、合気道の相対稽古で力いっぱい稽古をしていると、腹を精一杯つかっても上手く技にならない事に気づいた。典型的なのは、片手取り呼吸法で相手の首の下にくる手で相手を倒そうとしても相手の首にぶつかって動かなくなってしまうことである。ほとんどの稽古人はこのような状態にあると見る。また、二教裏も相手に頑張られると動けなくなる。幾ら力んでも駄目である。私自身もこの苦い経験はあったからよくわかる。

これらの問題を解決するために腹の力だけでは解決しない。この問題を解決するためには腹の上にある胸をつかわなければならないのである。腹から胸をつかうのである。何故、そう言えるのかというとそれは法則であるからである。宇宙天地を創造し営む布斗麻邇御霊に則らなければならないからである。それを布斗麻邇御霊の形であらわすととなる。は腹中のイキであり、は胸中のイキである。腹中のイキを“え”の言霊で胸中に上げ、胸を拡げ、気で胸中を満たすのである。そしてここで手をつかえば片手取り呼吸法も二教も引っかかることなく収まるのである。胸中に満ちた気が手先に流れるのである。しかも体の表を流れる陽の気である。因みに腹中の気は体の裏側の気であるから陰の気、魄の気になりがちであり、相手を押さえつけることは出来るが相手を引き出したり、浮き上がらせることは難しいものである。

胸をつかうと片手取り呼吸法だけでなく、坐技四方投げ、坐技肩取り呼吸投げ、交差取り二教等でその効果が実感しやすいだろう。また、鍛錬棒も腹から胸で振ると早く、強力に振れる。
更に腹中から胸中に気を流し胸中を気で満たす鍛錬をすると頭がすっきりするようである。頭の禊になるようである。それも理に適っているようである。布斗麻邇御霊ではの次の御霊はであり、これは人の場合の頭になると考える。つまり、腹→胸→頭である。

腹を鍛えたら、次は胸を鍛え、胸をつかうようにしなければならないのである。