【第94回】 すぐ試す

歳をとってくると、腰が重くなる。やろうと思ったり、本来やらなければならないこと、やった方がいいと思われることも、なかなかやらないようになる。そしてその内にだんだん何に対しても興味がなくなり、何もやりたくなってくる。

若いうちは柔軟だった頭も、だんだん硬くなってくるようだ。歳をとってくると、自分の考えややり方を変えようとしなくなる。これは自然の成り行きのようなので仕方がないかもしれないが、柔軟な頭になれるなら、それに越したことはない。80歳、90歳の高齢者にも、頭の柔軟なひとは沢山いる。そういう人は人とよく話し、人の話を良く聞き、笑い、感心し、明るい顔をしているようだ。明るい顔をしていれば、恐らく体もリラックスするだろうから、筋肉も柔らかいだろうし、だから元気で長生きできるのだろう。

世の中には面白い情報、参考になる情報が充満している。こちら側にそれをキャッチする準備があれば、それらの情報を受信することは容易にできる。合気道の修行に際しても、自分の上達のために、常に受信の準備をしておかなければならない。道場での相対稽古でも、相手は参考になる情報を沢山発信している。相手のいい情報を捉え、いいところを見つけ、見取り稽古などでも先輩や上手な人の「わざ」を学んだりすることができる。また関連書籍を読んだり、ビデオを見て研究もできる。道場の外の人とでも、話をしていれば、合気道の修行に結びつく多くの情報、ヒントを入手できるものだ。

しかしながら上達の情報、ヒントを見て、聞いただけでは、自分の身につくものではない。それを自分で試さなければならない。それも情報入手後すぐ、出来るだけ早く試して見なければならない。何故ならば、忘れることもあるし、それよりもそのとき得た情報の興味を失っていくからである。歳を取ってくればなおさらである。人の興味は刻々と変わっていくので、今興味があっても、その後は別な興味が湧いてくるものだ。折角の情報をみすみす逃すべきではない。その情報が再来したり、試す機会は二度と来ないかもしれないのである。高齢者になってくると腰が重くなるので、意志を強くして腰を軽くし、すぐ試すようにしなければならない。

高齢者になっても、常に上達するために学ぼうとする心構えと、そのための情報を受信するアンテナを張ること、そして受信した情報を即試すことが必要であろう。