【第92回】 上腕三頭筋

人は仕事をするときには腕を使うが、強い力を出したり、力を効率的に使う場合、腕はしっかりしていなければならない。しっかりしているということは、骨格も関係するだろうが、十分な筋肉が付き、それが強靭、柔軟に機能することであろう。地面、下肢、背中(広背筋、僧帽筋、菱形筋)から来る力は腕に伝達されるが、この腕が折れ曲がったり、筋肉が弱ければ、その力はそこで切れてしまい、手先まで伝わらないことになる。

肩に続く腕の筋肉は上腕三頭筋である(写真)。上腕三頭筋は、いわゆる二の腕部分の筋肉で、力こぶができる上腕二頭筋の裏に位置する筋肉である。ひじを伸ばした時に上腕二頭筋が伸びると同時に上腕三頭筋が縮むという作用があり、文字通り表裏一体の関係にある。腕を伸ばしたり、物を押さえつけたりする動作の時に働く筋肉である。 スポーツでは、ボクシングなどで、パンチ力アップに大きく貢献する筋肉として、重要な筋肉とされている。

合気道では、上腕三頭筋が弱いと、相手にしっかりもたれたときに腕が折れ曲がってしまうし、技をかける場合でも腕が折れたり緩んだりして、技がかからない。腕が折れてしまう原因は二つあるようだ。一つは上腕三頭筋が弱い。もう一つはその裏側(前側)にある上腕二頭筋が上腕三頭筋に比べて強すぎるか、使いすぎることだ。人は日常生活で上腕二頭筋を頻繁に使っているので、稽古でもこの筋肉を使いがちになり、本来は腕を伸ばすところを上腕二頭筋で引いてしまう。

上腕三頭筋は通常あまり使われないようなので、意識して鍛えなければならない。上腕三頭筋を鍛える筋トレは腕立て伏せがいいと言われる。またボディービルディングの教室などでは、トライセップス・エクステンションという、ダンベルを両手に持ち背中の上にたらすようにし、ひじを支点に上げ下げするトレーニングがいいという。

合気道で、このトライセップス・エクステンションの原理で上腕三頭筋を鍛えるには、大回しでやる木刀や鍛錬棒の素振り、諸手取り呼吸法、座技呼吸法などであろうが、四方投げや一教での腕の振り上げ、振り下ろしで、この上腕三頭筋を意識し、腕が折れないように注意してやるとよい。

また上腕三頭筋を鍛えると、ヒジを伸ばす動作を素早く・強く行えるようになるので、片手取り呼吸投げ、諸手取り呼吸投げ、隅落しなどで上腕三頭筋を鍛えるのがいい。筋肉は、収縮させることだけでなく、いかに素速く効果的に伸展させるかが大切であるが、この上腕三頭筋はその典型的な筋肉と言えよう。

蛇足ながら、もし腕(上腕)を太くしたいなら上腕三頭筋を鍛えた方いい。上腕三頭筋のほうが上腕二頭筋より筋肉は太いのである。