【第885回】 地の足と反対側の手が動く

これまで合気道での体づかいの基本は、所謂、ナンバであると書いてきた。実際、相対稽古で技を掛けるにもナンバでなければ上手く掛からないことは確かである。それがよくわかる技(形)は、例えば、正面打ち入身投げである。同じ側の手と足が同時に陰陽に働く事が実感出来る。
しかし、最近は力一杯打たせたり、掴ませる稽古をするようになり、これまでのナンバでは、力負けしたりして、上手く技が掛からなくなってきた。
そこで上手く掛からなくなった理由とその対策を考えた。

まず、ナンバの手と足のつかい方に問題があるのかということである。結論は、ナンバに問題はないが、そのナンバのつかい方がワンランク上がったつかい方をしなければならないということである。
具体的にどうするのかを説明する。正面打ち一教(右半身)でやってみる。

地の足(左足)に体重を掛け反対側の手(右手)を動かすのである。地の足とは地に落とす足であり、反対側の動く手(用)の支点、つまり、体である。

  1. 地の足(左)に体重が掛かると、反対側の手(右)が自然に上がったり、前に出る。
  2. 右足が地に着き、体重が載ると手(右)と足(右)が腹で結び一緒になる。これはナンバの形である。
  3. 手と足と腹が一緒になって地と結ぶと反対側の左手が前に伸び相手の腕に触れる。
  4. 手が相手の腕に触れたなら、腹と右足を相手に向け左足に重心を移動する。ここも手、足が同じ側で一緒になり、ナンバである。
  5. 左足側に体重が掛かると反対側の右手が自然と横に動き、そして右足も動いて一緒になる。
  6. 右手と右足が一緒になると左手と左足が浮くのを腰を下ろし、膝を着き地に落として、
  7. 右手と右足を地に着けて技を収める。
正面打ち一教での地の足と反対側の手が動きはこのようなものであるが、片手取り呼吸法でもこの“地の足と反対側の手が動く”でやらなければならない。特に、相手が力一杯掴んできた場合はこれでなければ抑え込まれてしまうことになるだろう。
更に、剣の素ぶりの動作もこれでやればいい。“地の足と反対側の手が動く”が非常に分かり易いだろう。

最後に、初期のナンバの動きと今回の“地の足と反対側の手が動く”ナンバの違いを記すと、初期のナンバは“地の足と同じ側の手が動く”ナンバの基であり、初めに身につけなければならないものであると考える。つまり、初期のナンバを身につけなければ“足と同じ側の手が一緒に動く”ナンバを身につけることはできないということである。初めから“地の足と反対側の手が動く”ナンバは出来ないはずである。
また、上で書いたように、“地の足と反対側の手が動く”ナンバは初期のナンバよりもワンランク上であるが、どういう意味でワンランク上かというと、魂の学びのための稽古により近づいたということである。実際、この“地の足と反対側の手が動く”ナンバで体と技をつかうと、力んだり、意識しなくても自然に手が動くようになるのである。この不思議な感覚が味わえるのである。合気道の技をつかっているという喜びと実感を得られるのである。魂の次元に近づいていると感じるのである。