【第885回】 手、足、腹の縦横の十字で

これまで何度も書いてきたように、合気道の技づかいの基本は十字である。十字道ともいわれていることからもわかる。例えば大先生の道歌に、「天地の精魂凝りて十字道 世界和楽のむすぶ浮橋」と詠われているのである。
十字には、天と地の縦の気の流れを司る高御産巣日・神産巣日神、左から右の横の気の流れを司る伊佐那岐・伊佐那美神との十字、縦の天の呼吸と横の地の呼吸の十字、天の浮橋の十字、「天地火水」の十字などあるが、これらの天地宇宙の営みに則った体と技づかいをしなければ、いい技は産まれないのである。よって体も技も十字々々につかわなければならないわけである。

これまで手、足、腹を十字につかわなければならないと書いてきたが、これらの十字は間違いなかったし、大事なことであるのは確かである。しかしまだ十分な十字ではなかったことが判明したので、何が不十分だったのか、どうすればいいのかを書くことにする。

まず、手を十字につかうとは、手を前に出したら、次に横に動かし、そして縦に伸ばす十字、また、手の平を縦から横、そして縦に返す十字であった。手を縦⇒横⇒縦につかうのである。
しかし、この縦⇒横⇒縦の十字は二次元的な動きであり、強力な力(気)や粘力の出が不十分であることが分かってくる。
そして、この十字は横の十字であると実感する。何故なら、この横の十字に対して縦の十字があることがわかったからである。

手の縦の十字は、手先を指先方向の縦に伸ばし、つまり気を出し、次にその縦方向に直角となる横に手先を気で拡げ、そしてその気を縦の指先方向に流す、縦⇒横⇒縦の十字である。手は二次元的で平面的なものではなく、三次元的で立体的な手になる。これが手の縦の十字である。
要は手の十字は横の十字と縦の十字を結んで一緒にしてつかわなければならないのである。以前の横の十字だけでは不十分だったわけである。
諸手取呼吸法でしっかり掴まれた手を返すには、この縦横の十字でやらなければできないだろう。

この手の縦横の十字と同じように、足にも縦と横の十字があり、これも一緒につかわなければならない。
足の横の十字は、後ろ足の足底に対して前足の踵が十字々々になるようにすることである。六方とか撞木足である。これはこれまでやってきた事である。
次に、足の縦の十字である。後ろ足から前足に体重が載ったら足が地に下りる。天地の息、縦の息である。そして息を吐いたまま地の足を横に拡げ、すかさず地を蹴るように縦に伸ばす。高御産巣日・神産巣日神の縦の気の流れから伊佐那岐・伊佐那美神の横縦の十字になるわけである。この感覚は四股踏みがわかりやすいだろう。
足も手と同じように、横と縦の十字でつかうということである。

同じように腹も横と縦の十字でつかわなければならない。腹の横の十字が、腹を前足方向に対して直角になるように、左右、十字々々に返すわけだが、腹にも縦の十字がある。この腹の縦の十字は足の縦の十字に連動しているというより、足の縦の十字は腹の縦の十字でつくられると言った方がいいだろう。いつも言っているように、体のつかいかたは腹を動かし、次に足を動かし、そして手が動くからである。

合気道で体をつかい合気の技を生み出すためには、手、足、腹の縦横の十字でやらなければならないということである。