【第884回】 息で技を生む

後進達の稽古を見ていると体の動きには注意しているが、息づかいには注意を払っていないようである。己自身もかってはそうだったので分かる。
形や手足のつかい方は教わるが、息づかいは教わらないので、その重要性が分からないし、気がつかないのであろう。また、息づかいの重要性に気がついたとしても、どのように息をつかえばいいのか、そのためにどのような稽古をすればいいのかが分からないのだろう。

しかし、実際には、合気道では息づかいを教えているのである。教えると言っても、息をこうしろ、ああしろという教えではない。
その教えは誰もがやっている受け身である。受け身で合気道の息づかいを学んでいるわけである。はじめは受けを取ると、ハーハー、ゼーゼーするが、慣れてくると激しい受けでも、長く受けを取っても息切れがなくなる。この段階になると合気道の息づかいが身についたことになる。自然と無意識で息を吐いて⇒吸って⇒吐いて受け身しているのである。加えて、腹、胸、心臓などの内臓も丈夫に柔軟強靱になる。まずは受け身を沢山取る事である。どんな人の受け身でも取れるようにすればいい。

この受け身による息づかいは無意識の稽古であるが、今度は意識した息づかいの稽古をするのがいいと考える。大先生の演武での受けを40分も取れるような人は無意識で息づかいが完結しているわけなので必要ないだろうが、我々のような凡人には必要なはずである。
一つは、イクムスビの息づかいである。イーと息を吐き、クーと息を引き(吸い)、ムーと息を吐き、これで技と体をつかうのである。これは以前に書いているので省略する。
二つ目は、布斗麻邇御霊と音声「あ、お、う、え、い」での息づかいである。これも大先生の教えであるが、目に見える次元の稽古、顕界の稽古から、目に見えない次元の幽界の稽古に入らなければ難しい息づかいである。前述のイクムスビの息づかいは顕界から幽界に入るための息づかいだと考える。つまり、イクムスビの息づかいができなければ布斗麻邇御霊と「あ、お、う、え、い」での息づかいには入れないだろうということである。

布斗麻邇御霊と「あ、お、う、え、い」については以前にも書いているから、ここではこの息づかいを容易にできるように簡単にまとめてみることにする。
まず、この息づかいの基本は、吐いて、吸って、吐くである。また、大ざっぱに云えば、吐く息は腹、引く息は胸である。これは布斗麻邇御霊の運化からくる。初心者は腹中での息づかいを重視するが、胸中での息づかいが弱いので鍛錬する必要があるだろう。例えば、片手取り呼吸法で、上げた手が相手の胸に当ったり、手で抑えられるのは胸中ではなく、腹中で息をつかっている場合が多い。
次は、布斗麻邇御霊と「あ、お、う、え、い」での息づかいである。布斗麻邇御霊の運化に「あ、お、う、え、い」の音声で技を生んでいくのである。
技を掛ける際のこの息づかいを簡単にまとめる:

  1. あ声で息を吐く。これは天の息で○であり、水である。更に、お声でこの息を地に下す。布斗麻邇御霊で現わすととなる。
  2. う声で息を吐きながら腹中の気を横⇒縦にする。である。
  3. の息が胸に上がり、この息が胸を満たす。この息は□であり、火である。である。
  4. 後は、胸のを腹のに収めとし、技を収めればいい。
これを大先生は、「天の運化により修業する方法が即ち私の合気道であります。この一元より出て来る宇宙の営みのみ姿、水火のむすび、つまり天の呼吸と地の呼吸とを合し、一つの息として生み出していくのを武産合気というのであります。」と教えておられるのである。
尚、━は息(気)を引き、|は息(気)を吐く事である。○と□の吐く息と引く息の中で、更に息(気)を吐いたり、引いたりするので、これを身につけるためには練習が要る。

この息づかいで技と体をつかっていかなければならないわけだが、もう一つ大事な事は、この息づかいをしていると「気」が生まれるということである。気を身につけ、技につかいたければ、この息づかいを身につけなければならないという事なのである。