【第881回】 足の反対側の手をつかう

手と足の形と働きの関係は、所謂、ナンバである。前足側の手が陽に働き、後側の足の手は陰にある形、同じ側の足と手が一緒に動くことである。ナンバは、合気道は無論の事、武道の基本であるはずである。つまり、このナンバで手足をつかわなければ基本の技にならないということである。例えば、合気道の正面打ち入身投げ(右半身)は、右足が前で右手が出る。左足が進んで左手が出る。体を転換して右足に体重が移動し右手が前に出る・・・と、ナンバで足と手をつかえば、基本的な正面打ち入身投げになる。ナンバではなく、手足をばらばらにつかえば、必ず動きが止まり、相手とぶつかったり、押さえられてしまうので、腕力で処理しなければならなくなる。
ナンバで技をつかっていくと気持ちがいい。合気道の技を掛けていると実感出来るし、受けの相手も納得しているように見える。

しかし、最近、状況が変わってきた。受けも力をつけてくるし、このナンバの動きに慣れてくるので、時として力を込めて頑張るようになり、上手く対処できないのである。ナンバで手足をつかっていることは間違いないわけだから、上手くいかない原因として考えられるのは力不足である。より強力な力を出す必要があるということである。

そして強力な力を出せる方法を見つけた。足側と反対側の手を陽としてつかうのである。正面打ち一教(右半身)の場合、左側の後ろ足を支点として右手を出すのである。左側の後ろ足を体(支点)とし右手を用につかうのである。槍を突くような動きになるので相当な力が出る。過って、有川先生を正面打ち一教で打っていった時、強烈な力で返されたのは、この足側と反対側の手からの力であったように思う。

正面打ち一教のうちに対して出す手は右手だけではなく、左手から出すのもある。合気道の基本的な構えは“うぶすの社の構え”であるから、この構えから正面打ち一教の攻撃の手を抑えるために体重が掛かっている右足側の右手を動かすことはできない。足側と反対側の左手を動かすことになる。この手が相手の二の腕を抑えることになるのである。
つまり、正面打ち一教で足側と反対側の手をつかわなければならないが、右手と左手があるということになる。

しかし、ここで問題が出て来る。ナンバは手と足は同じ側が同時に働かなければならないという決まりがあるわけだから、足側と反対側の手をつかうということは、この決まりに反していることになるのではないかということである。私もはじめそう思ったが、実際に足側と反対側の手をつかっていくと、これも結局はナンバであると実感出来るのである。動きの要所々々がナンバになっているのである。よってこれは間違いなくナンバである。またまたこれも合気道のパラドックスということである。

足側と反対側の手をつかえるようにするためには、まずは“ナンバ”の形と動きを身につけなければならないだろう。これを省くと足側と反対側の手を上手くつかうことは出来ないはずである。ナンバでも、技づかいは無論の事、ナンバで歩くだけでも結構な修練がいるものである。