【第880回】 まずは人の育成から

合気道を長年続け、年を取り、段位も上がってきたことにより、これからは、これまでの己のための稽古から、世の中のためになる稽古に変わらなければならないと思うようになった。この気持ちは、稽古から修行の次元に入るような気持である。己だけのためだけでなく、世の中のためになる修業である。宇宙楽園建設、地上天国建設のための奉仕に入るということである。これが合気道の目標であり、使命であることは大先生からお聞きしたり、聖典『武産合気』『合気神髄』で教わり知っていたが、そろそろ実行に移さなければならないと思うのである。

大先生は、「この道(合気道)を思惟する人々は、宇宙建国完成の経綸に奉仕しなければならないことになっています。人としての使命を遂行し、世界大家族和合の指標たるものでなければいけません。)(武産合気P.24)」と言われているが、宇宙建国完成の経綸に奉仕するといっても、こんな大それたことがすぐに出来るはずがないから、目標は目標として、この目標に少しずつ近づけばいいと考えている。そのためには何をどうやっていくのかを考えなければならない。そしてそれを地道に見つけ、一つ一つ片づけていけばいいだろう。

上記の大先生の教えにもヒントがある。それは「宇宙建国完成の経綸に奉仕」するためには、「人としての使命を遂行」することであるとある。己のやっている事、やるべき事が使命であるから、それをやり遂げればいいという事で、それが宇宙建国完成への奉仕になるということである。私の場合は合気道をやることが使命であるようだ。振りかえってみると海外生活でも、ビジネスの世界でも合気道の考え方や哲学で人を喜ばせたり、不安や怒りを和ませたこともあった。些細な事だが、奉仕していたわけである。因みに、合気道が己の使命と実感するのは、その見返りを何者かに頂いてきていると思うからである。つまり、何者かとの黙約があるのである。合気道に精進していくかぎり、衣食住や健康、災害避け等は約束されているように思うのである。

次に、「世界大家族和合の指標たるものでなければいけません」との教えがある。考えるに、これはこれまでの独り相撲ではなく、仲間をつくり仲間と宇宙建国完成に奉仕するようにせよということだと感得する。故に、これからは仲間づくりをし、そのためには後進を育成しなければならないと思う。

後進を育成するとか、人を育てる、人に教えるということは容易な事ではない。特に、合気道の世界、武道の世界では難しい。時代と人とが、合気道や武道・武術が生まれた時や環境が違うからである。私が入門した頃は、大先生もご健在だったし、強い先輩もおられ、解らない事や出来ない事などを自主稽古でいろいろ教わった。また、我々がああでもないこうでもないと技を掛け合っていると、先輩が来て「こうやるんだと」教えてくれたものだ。
今では、聞きにくる後輩はいないと云っていい。そういう後進に教えるのは難しいということなのである。

それでは後進に教える、つまり、先生でもない自分が、どうすれば後進を育成する事ができるかということになる。その答えは、己自身が最高の技を真面目につかう稽古をすることである。合気道の稽古は相対で技を掛け合うもので、稽古中は他の稽古人の技を見る事がない。しかし、人は何か問題があって、例えば、どうしても出来ない技や動きがあると、人はどうするのかと見たくなるものである。その時に最高の技を目にすればそれが大いに役立つはずである。これは自分も経験しているのでよくわかる。

技のレベルが上がってくると、その人たちと和ができる。心が結び合うのである。人が結び合えないのは魄の次元にいるからである。魄の次元は物質文明、競争社会だからである。気の次元、魂の次元に入ると心が優先し、合気道で求めているものは「宇宙建国完成の奉仕」であることに気がつくようになるはずである。仲間、同士となるわけである。合気道の仲間の家族である。

後は、社会の仲間を加えて世界大家族をつくっていくことになるわけであるが、まずは合気道仲間の育成、後進の育成、人の育成から始めることにする。