【第863回】 真空の気に結んで

合気道家は上達しようと稽古を続けているわけだから、年を取ったからといってレベルを下げるわけにはいかない。しかし、年を取れば体力が落ちるし、力も気力も衰える。このジレンマをどう解決するのかが合気道高齢者の大きな課題である。

人は年を取って高齢になってくると、筋肉が弱ったり、筋肉や骨を痛めたりして体の自由が効かなくなってくる。これは誰にでもあることなのだが、また誰もがこの体の退化から解放されたいと願っているはずである。
合気道家は、以前のように体が動き、稽古ができることを、また、合気道をやっていない人たちは、体がそれまでのように動き、日常生活が送れるように望んでいるはずである。望んでいないと思っていても、一度、体を壊したり、体が動かなくなるとそう思うはずである。もう一度稽古をしたい、歩きたい、動きたい等である。

合気道では技をつかうことによって、体の調子がわかる。体の調子がよければいい技が生まれるし、体が故障したり、機能不全に陥れば技はつかえない。この機能不全の代表は筋肉、体力の衰えである。
はじめはこの体の調子は肉体的なものである。つまり、体の故障や機能不全は肉体的なものになる。故に、体が故障しないようにし、筋肉・体力が衰えないようにすればいい。特に、足腰が弱るので歩いたり、走ったり、階段上りなどで鍛えればいい。これは合気道をやっていない人にも言えることである。

次に、合気道では技を気で掛けるようになるが、この気も年とともに衰える。所謂、気力の衰えである。この衰えを補わなければならない。
合気道の教えでは、「空の気と真空の気を技と性に結び技を生み出す」とある。空の気とは己が生み出す気であり、真空の気とは大地の気、森羅万象の気である。
前出しの衰えていく気は空の気であると考える。そこでこの衰える気を補い、気力を増大することができるのが真空の気ということになる。大地の気、森羅万象の気は無尽蔵にあるし、いくら取り入れても請求書はこない。

合気道の禊ぎの稽古では、空の気と真空の気を技と性に結んで技を生み出す稽古をしていけばいいが、年を取ってきたらこの強力で膨大な真空の気に重きをおいてやることである。そうすれば気力が増し、元気になるはずである。
また、合気道をやっていない人も大地の気、森羅万象の気を体に取り入れていけばいいだろう。山、川、海、森や林、花畑、田園などの自然を散策したり、その中で生活するのである。人は、自然の中にいると気持ちがいいと感じているわけだが、それが何故なのかは分からないだけなのである。分からなくとも真空の気に結んでいるのである。