【第861回】 うのみ働き

前回、真の合気道の技になるためには、体の表をつかわなければならないと書いた。がもう一つ“うのみ働き”が必要であると書いた。そしてその“うのみ働き”については今回書くことにしていた。

“うのみ働き”とは“うの言霊”の働きである。“うのみ霊”とはう声の言霊である。この“うの言霊”を大先生は、「ス声が生長して、スーとウ声に変わってウ声が生まれる。絶え間ないスの働きによってウの言霊が生じるのである。ウの霊魂のもと物質のもとであります言霊が二つに分かれて働きかける。御霊の両方をそなえている。」(合気神髄P111)と教えておられる。

“うのみ働き”によって、物質のもとと霊魂のもとが二つにわかれるが、前回の『体の表をつかう』で書いたように、うの言霊で気を体の内側の陰(腹胸側)から体の表側(背中腰側)の陽に返すのである。“うのみ働き”によって体の表をつかうことによって魄の世界を魂の世界にふりかえるのである。

しかし、うの言霊に働いてもらうのは容易ではない。まず、それはそれまで錬磨してきた腹での息づかいを変えなければならないからである。腹で息を吐き、息を引いて腹を鍛えてきたわけだが、このウ声でやると腹に力が集まり魄の力になってしまうのである。
それではどうするかというと腹の後ろの仙骨で息をするのである。うーと息を吐きながら仙骨を拡げ、腹中を大きく広げ、仙骨を拡げるのである。
これを大先生の弟子だった早川宗甫先生は、「本当の呼吸法を知っている奴は少ないよ。よく植芝先生に、オヌシはただ息をしているだけじゃと言われたよ。腹を凹ませた時、吸って吐きながら、腹を膨らませて肛門を締めるのだ。肩の力を脱ぎ、手の力も完全に脱いて、相手に任せてしまうのだ。そして、呼吸に集中するんだ。」(『植芝翁の教え』講談社エディトリアルP.124)と言われている。
この息づかいは、霊界をつくるスーウーからのアオウエイの“うの言霊”で生まれることになるはずである。

体の魄が下になり、魂が表になるためには息づかい、言霊の働きが大事であるということである。真の合気道の魂の技は息でかけるが、まずは“うの言霊”、“うのみ働き”によって掛けるのがいいようだ。大先生は、これを「合気はある意味で、剣を使うかわりに自分の息の誠をもって悪魔を払い消すのである。つまり魄の世界を魂の世界にふりかえるのである。これが合気道のつとめである。魄が下になり、魂が上、表になる。それで合気道がこの世に立派な花を咲かせ、魂の実を結ぶのである。」(合気神髄P.13)と言われているのだ。

前回の「体の表をつかう」に加え、これで更に真の合気道に一歩近づけるだろう。

参考文献 『植芝翁の教え』講談社エディトリアル