【第86回】 真理と真実

合気道の道場で、相手と組んで稽古をしていると、よくぶつかり合って、争ってしまうことがある。どちらが悪いということではないのだが、お互い頑張り合ってしまう。双方とも自分の合気道観でやっているので、その人にとってはその合気道が真実であり、また相手にとっても自分の合気道が真実なのである。

人類の歴史を見ても争いばかりで、戦争の歴史ともいえるほど争いが絶えない。恐らく地球の歴史上、戦いのない日はなかったともいえるほどではないか。争いは、小さな範囲から大きな範囲へと拡大していくものだ。日本で言えば、はじめは集落などの中での隣近所の争いが、集落と集落、藩と藩、日本と外国などへと拡大している。世界を見ても、同じような争いが、国と国という国際的な規模で展開されている。

争っている当事国はお互いに、自分たちは正しい、自分たちが真実であり、相手が間違っていると思っている。だから、争いはなかなか収まらないのである。今は大きな争いとして、国と国が争っていることが多いが、この地球上の争いは当分なくならないだろう。もしこの争いがなくなるとしたら、2つの理由が考えられる。

一つは、地球外の星からの宇宙人と遭遇することである。そうなれば、これまでの人間の歴史が示すように、争いの範囲と対象が格上げされるので、地球は一致団結して宇宙人に対応することになるであろう。もちろん、そうなると争いは国と国の地球上の争いから、地球と他の惑星へと拡大することになる。

二つ目は、人間がレベルアップすることである。争いの愚かさを知ることである。宇宙の意志を悟り、宇宙の愛のこころを悟れば、争いの愚かさがわかるだろうが、これは容易ではないように思える。

人の数だけ合気道がある、と言われている。各人の合気道は各人にとって真実だから、真実の数だけ合気道もあるのである。合気道で争わないためには、理合の合気道をすることである。理に合うとは自然で、無理がないことである。つまり、宇宙の法則に則ったものである。これを真理という。

真理の合気道をすれば、争いはなくなるはずである。開祖は、合気道は争ってはならないと言われているが、宇宙法則に則った真理の合気道をせよということであろう。真実は沢山あるが、真理は絶対であるから、一つしかない。この真理に照らし合わせて物事をなし、判断すれば、物事の判断は誤らず、争いはなくなり、合気道の真の上達もあるはずである。真実の合気道ではなく、真理の合気道を精進したいものである。