【第859回】 基本は体を動かすこと

朝や昼にテレビを見ていると高齢者向けのコマーシャルを沢山見る。高齢者向けのサプリメントや運動器具や化粧品や健康・介護用具などである。この時間帯は若い人たちは学校に行ったり、勤めているので家にはいないので、広告の対象者は高齢者となるから当然である。
広告を見て、広告商品を買う人(高齢者自身や高齢者の関係者等)は大勢いる。いるから広告が続けられているのである。

しかし、私はこれらの広告に疑問を持って見ていた。どうしても必要な人もいるだろうが、大半の人には不必要だと思っているし、こんなものを使ったならば効き目もないし、体によくないと思うのである。その典型的な例は寝床の角度が変えられ、ベッドで一日、本を読んだり、食事をして過ごせて、介護ベッドにもなるという健康ベッドの宣伝である。体を動かさなければ老化を早め体はどんどん動かなくなるはずである。
物事には必ず二面がある。いい面と悪い面である。便利という事は、己自身がやるべき事を他がやってくれることになり楽であるが、己の体を使わない事になり、その分退化することになるわけである。

サプリメントや運動器具や化粧品や健康・介護用具をつかって老化予防や健康や若返りをするより確実なものがあると思っている。それは自ら体を動かすことである。運動である。
運動をした方が、サプリメントを飲んだり、化粧品で化粧するより効果があると思って、いつも広告を見ていたのである。

自分では長年、運動に勝るものはないと信じていたが、客観的な裏付けがなかった。が、最近、この裏付けになる本に出会った。『運動能』(アンデッシュ・ハンセン著 サンマーク出版)である。著作者は、スエーデン出身の精神科医である。この著者が強調するのは、①体を動かすほど、脳に影響をおよぼすものはない。脳は頭を働かせようとするより、体を動かすことでこそ威力を発揮する器官。 ②ストレスによる疾患の治療と予防には、運動が目覚ましい効果をもたらすことが、研究によって立証された。③運動によって選択的注意力と集中力が改善することがわかった。④運動は、副作用が一切ない薬だ。少しだけ気持ちが滅入っている人でも、深い苦悩を抱えている人でも、たいていは運動すれば晴れやかな気分になれる。⑤運動以上に記憶力を高められるものはない。⑥加齢による前頭葉の萎縮の進み具合は、カロリーの消費量と密接に関わっている。よく動いてカロリーをきちんと消費する人は、加齢による前頭葉の萎縮の進行が遅くなる。⑦歩いたり走ったりすると、脳内では様々な領域が協調しながら活動している。⑧日常の範囲で身体を動かすことが、病気を寄せ付けない秘訣なのだ。
著者の結論は、「現代人を悩ませるあらゆる心身の不調は、身体を動かさなくなったことが原因であるということである。

次に運動に関しての運動の条件や目安であるが、著者は、「たとえわずか1歩でも脳のためになる。より高い効果を望むなら、最低30分のウォーキングをしよう。脳のための最高のコンディッションを保つためには、ランニングを週に3回、45分以上行うことが望ましい。重要なポイントは心拍数を増すことだ。そして有酸素運動中心に行う。筋力トレ―ニングも脳によい影響をおよぼすが、どちらかといえば有酸素運動のほうが望ましい。あなたが筋力トレーニングのほうを好むとしても、持久力系の運動をぜひ取り入れてほしい。」

これで運動の重要性が科学的に確認された。体を動かすことが人の基本であり、毎日、運動を続けなければならないことを再認識したわけである。そして合気道の稽古は、運動として理想的なものであることも自覚した次第である。