【第855回】 研究開発が大事

毎週この論文を書いてきたが、今回で第855回になる。1000回を目標としているのでまだ150回ほど残っているが、これからは着実にゴールに近づいていくのが実感できるという楽しみがある。やっと余裕が出来たということで、今回はこの論文を書く事になった動機や目的などを顧みてみたいと思う。当初は何故書くのか、何のために書くのか、何が目的なのかなど考えもせずに始めたので、整理してみたいと思うのと、残りの150回をより満足できるものにしたいと思うからである。

この論文を書きたい、書かなければならないと思った動機は、只、むしょうに書きたかったことである。書きたい事が幾つも溜まっており、それらを書いていったのである。
論文を書き始めたのは、本部道場で教えておられた有川定輝先生が亡くなられて間もない頃からだと思う。先生からはいろいろと大事な事を教わっていたが、先生は言葉で直接教えて下さることはほとんどなく、先生の技や仕草から学んだ。先生にはまだまだ教われるだろうと思っていたところ亡くなられてしまい、これから誰に教わればいいのかと寂しくなった。
そして、もし、有川先生が先生の教えを文章で残して下さっていたら助かっただろうにと思ったのである。先生は、晩年、その内に本を出すぞと言われておられたが実現しなかった。

縄文時代は1万年以上続いたのに、彼らがどのように生きていたのか、何を考えていたのかなど知りたいが分からない。もし、文字があって、文字にそれらが表され、残っていれば、それが分かったはずなので残念である。文字に表わされなかったことにより、忘れ去られた文明は数多くあることを我々は知っている。残すべくモノ、残したいモノは文字であらわしておかなければならないということ考えたのである。
勿論、残すに値しないようなモノもあるだろうが、心配いらない。残すに値しないモノは自然に忘れ去られ、消えていくからである。今の世に残っているものはそれに値するモノであり、それらで構成されているのである。故に、自分の思うように書けばいいと思ったわけである。

合気道を始めて半世紀以上、論文を書いて20年近くなるはずだが、ようやく何のためにこの論文を書いているのか、そして何を目標にして書いているのかがはっきりしてきた。

この論文を書くことを一言で云えば、「合気道研究開発」と言える。
まず、この合気道の論文を書くことによって、合気道というものがよく分かるようになることである。自分でわからなければ論文に書くことはできないので、分かるように研究することになる。研究の土台は技を練る稽古と大先生の教えである『武産合気』『合気神髄』である。よって、技の稽古が一生懸命になるし、『武産合気』『合気神髄』を真剣に読むようになる。もし、論文を書いていなければ、これほど合気道を研究することはなかったはずである。

論文はこの『高齢者のための合気道』と『合気道の思想と技』『合気道の体をつくる』『合気道上達の秘訣』の4つのテーマで書いている。いいテーマだと我ながら感心している。合気道の修業に必要な事が網羅されてしるし、合気道上達に不可欠であると思うからである。
例えば、合気道の修業の目的、目標などは『合気道の思想と技』で最近書いた。それまで分からなかった合気道の目標は“宇宙との一体化”と“地上天国建設”であることが分かったし、それらは小乗の目標と大乗の目標であることも分かった。

年を取ってくると己自身の修行と上達も大事だが、後進、後輩の精進も大事であると思うようになる。そのためにもこれらの論文が彼らに少しでも参考になり、助けになるように書かなければならないと思うようになる。先人から教えて頂いた教えや自分が会得した教え、また、大先生の難解な教えを解読し残して置くことである。また、その論文が書かれた過程、つまり積み重ねの重要さが分かり、また、如何に試行錯誤したのか等を分かってもらえればいい。
成果もあるが過ちもあるだろう。今でも何人かはこれまでの論文を見ているはずだが、反応はほとんどない。別に期待をしているわけではないのでそれでいい。この論文の評価はこの作者の没後10年だと思っている。論文の残りは後150回ほどあるから、評価などまだまだである。

この論文を書くのは「合気道研究開発」である。合気道目標達成のための時間的、労力的投資である。人様からのお礼など期待していない。最後に技となり、宇宙との一体化となり、地上天国に遊ぶことで報いられると思っている。合気道でも研究開発が大事である。