【第855回】 魂を表に魄を裏に

合気道は魂の学びであると教わっているので、腕力などの魄の稽古から脱却し、魂で技をつかうようにしなければならないとやってきた。大先生は、そのためには、「魂を表に魄を裏に」しなければならないと言われていたが、これがどのような意味なのか、また、どうすればそれが出来るようになるのかが分からなかった。只、分かっていたことは、これをしなければ魂の技はつかえないということである。
これを大先生は、「合気はある意味で、剣を使うかわりに自分の息の誠をもって悪魔を払い消すのである。つまり魄の世界を魂の世界にふりかえるのである。これが合気道のつとめである。魄が下になり、魂が上、表になる。それで合気道がこの世に立派な花を咲かせ、魂の実を結ぶのである。(合気神髄P.13)と教えておられる。

最近、ようやくこの「魂を表に魄を裏に」の意味とやり方がわかってきた。そして「魂を表に魄を裏に」すれば、魄の肉体主体の技づかいから、魂の技づかいになることを実感できるし、また、「魂を表に魄を裏に」しなければ、魄の技づかいから脱する事は不可能であることも確認できた。

それでは「魂を表に魄を裏に」をどうするかである。私の場合は、片手取呼吸法でその意味が分かり身に着けたので、この呼吸法で説明することにする。
まず、重要なポイントのひとつは、持たせた手(一般的には、相手との接点)に己の体の力(体重とする)が掛かるようにすることである。しかし、通常これをやろうとすると上からのしかかることになる。これは魄の力であり、またそれほど強力ではない。力の強い相手に頑張られたり弾き返されてしまう。
持たせた手、相手に接した手に体重が載るためには、腰腹からの力を手先に流さなければならない。しかし、腰腹から手先に力を出せばいいわけではない。これだとまだ魄の力しか出ないからである。
腰腹からの力を腹・胸(胸鎖関節)、肩、腕上(橈骨部)、そして親指に流し、その親指と十字に他の指を息で伸ばし進めるのである。これでしっかりとした手(胸から手先まで)が出来る。これが裏となり下となる魄である。
このしっかりした手(魄)ができると、この魄の上・周り(表)に気・魂が生じてくる。重く、引力のあるものであり、大先生が云われる気魂力、心魂というものだろう。この気魂力、心魂が出てきたら、これで相手を制し導けばいい。土台の魄が表に顔を出さないように、魂の力で技をつかうのである。これを大先生は、「魄に堕せぬように魂の霊れぶりが大事である。これが合気の練磨方法である。」(武産合気P.73)と言われておられる。これを呼吸法だけでなく、すべての技でやっていくのである。これがこれからの魂の稽古である。いよいよ魂の修行に入れるようである。楽しみである。

これまで魂の技づかい、魂の稽古はとてつもなく高度で難しいものと恐れていたが、意外と身近なもののようなので安心した。例えば、前出しの大先生の教えの「剣を使うかわりに自分の息の誠をもって悪魔を払い消すのである。つまり魄の世界を魂の世界にふりかえるのである。」とあるが、息での技づかいは、それまでの肉体主体の魄から魂の世界に入ったということである。この息による技づかいは大分前からやっていたわけだから、既に魂の世界に入っていたことになるわけである。