【第852回】 宇宙のひびきと同一化

最近、若い頃とは変わったなと思う事が多くなってきているようだ。変わったのは、大体は悪く変わるネガティブな事であるが、年をとれば当然で、誰もが経験するわけなので、それを書いたところで誰も興味を持たないだろうし、ただの嘆き節に聞こえるだろうから、悪く変わった事は省くことにする。
そこで“よく”変わった事を書くことにする。若い頃は出来なかったし、それほど評価していなかった事が、年をとった事でできるように変わった事である。この変わった事をどのように説明するのか難しいが、挑戦してみることにする。

最近、気がつくと、テレビを見ている時とか、新聞を読んでいる時、本を読んでいる時、街で人々を見ている時等々、感激する事が多くなった事である。それも間髪をいれずに喜んだり、感激したりして、笑顔になったり、涙を流すようになったのである。
当初は笑顔になったり、涙を流すのは恥ずかしいと思って、顔をひきしめ、涙をこらえようとしたが、無駄な抵抗は止めることにした。楽しければ大いに笑い、悲しかったり感激したら大いに涙すことにしたのである。
例えば、幼い子供たちの笑顔や仕草・行動を見ると笑顔になるし、人のために頑張っている人たちの姿を見たり、言葉を聞くと涙が出て来る。また、自分自身のため自分と戦っている人の姿を見ると、頑張れよと応援する。
若い頃は、それほど感激することもなかったこともあるが、感激してもそんなものはこういう事だろうし、大したことではないと、知識や頭で処理したり、感激しないようにしたり、否定してきていた。

これが見たもの、聞くものに即感激するように変わったし、更に変わろうとしているのである。若い頃とは正反対に、意識して変わろうとしているのである。何故変わったのかを考えてみると、はじめは年のせいだろうとしたが、どうもそれだけではないように思うようになった。すべての高齢者がそうなっていないからである。高齢者がすべてかその大半が感激して笑顔になり涙するなら年のせいでいいだろうが、現実はそうではないと見るからである。
ということで、やはり他の要因があるはずである。そこでいろいろ考えているとその答えが見つかったのである。それも合気道の教えである。

合気道の修業も半世紀以上にわたって続けているお陰で、年も取ったがいろいろな教えも身に付いてきたと思っている。
高齢者になって、若い頃の稽古法から変わらなければならないと思い、目に見えない次元の幽界の稽古を志してきている。若い頃の肉体的な魄の稽古から、心の稽古に変えて来たつもりである。この稽古のお蔭で、気というものが身に付き、宇宙の真空の気と結び、宇宙のひびきと結び・一体化することを目指すことになったわけである。これで技を練っていくわけであるが、ここから光と熱と力が生まれているようなのである。
これを大先生は、「宇宙のひびきと、同一化すること。そして相互交流。この変化が技の本となるのである。すなわち、「気の妙用」である。五体と宇宙のひびきの同化。これにより光と熱と力が生まれ、この現象は微妙な妙用である。」(合気神髄 P.175/6)と教えておられるのである。

ここから生まれる己の光と熱と、例えば、天真爛漫な幼児たちの笑顔(熱と光)が同化することによって、感激し笑顔になり、涙を流すようになったと考える。光も熱も力も宇宙のひびきであるから、体で直に感応するのだろうと感得する。
年を摂った事によって、宇宙のひびきや万有万物のひびきに感応できるようになったということだと誇りに思っている次第なのである。