【第852回】 技が切れないために

合気道は技を練って精進していく。入門した時はもちろんのこと、50年以上の高段者になっても同じであり、合気道を続ける限り技を練り続けるはずである。故に技は大事である。しかし、その割には技の事がよくわかっていないようだ。それ故に、まず初めに、技について改めて考えてみることにする。
まず、合気道の技とは何かである。初心者は容易に答える事ができる。正面打ち一教とか片手取り四方投げなどが技である。しかし、長年稽古をしてくると、これは技というより型(形)であると思うようになる。そして技とは業(神のわざ、宇宙のわざ)であり、宇宙の営みの姿形であり、宇宙の法則であるとなるのである。
まずは、一教や四方投げを型として身につけていくわけだが、謂わば、家や車の枠組みのようなものである。この中に宇宙の営みや法則を詰め込んでいき、型が技として働くようになり、型と技がイコールになるわけである。つまり、合気道の型(形)でも合気道の技でも同じになるわけである。

次に技の難しさである。合気道は、相対で技を掛け合って稽古をするが、技は思うように掛からないものである。初心者の頃は、技は掛かるものと思って技をつかうが、長年稽古をしてくると、技は掛かり難いモノであり、技は掛かるように技と体をつかわなければ掛からないことが分かってくる。要は、その技が宇宙の法則に則っているかどうかである。宇宙の法則に逆らっていなければ相手が倒れるし、そうでなければ倒れなかったり、また、頑張ったり、反撃してくるわけである。従って、技は倒すために掛けるのではなく、相手が自ら倒れるようにしなければならないのである。相手を倒すことが目的で技をかけるのではないが、相手が倒れなければその技は失敗作ということになる。

技を掛けた相手が倒れてくれない場合、いろいろな原因があるわけだが、最近気がついた原因がある。それは掛けた技が途中で切れてしまうことである。技が切れるのは、体の動きも切れることになるが、切れればそこに隙ができ、相手の動きも止まったり、反撃をしてきたりすることになる。
技と体の動きが切れる原因はいろいろある。切れるようにつかっているのである。まず、稽古の初期では、手をつかい肉体的な技づかいをするから技はどこかで必ず切れる。次に、息を吐きながら力で技をかけるようになるが、息は吐いたら吐き切ったところで切れてしまうので、そこで体の動きも技も切れることになる。この次の段階では、息で体と技をつかうようになるが、途中で息が切れ、そして体と技が切れてしまうものである。
その理由は、息を腹で出し入れ(吐いたり吸ったり)して、手と技をつかうからである。腹の息は吐いても吸っても、ある処で切れてしまうものである。手を上げて回す動きをしてみれば、肩のところで引っかかり、動きが切れるのが分かるだろう。
この問題を解決し、切れない技と体をつかうためには、腹の息づかいに加えて胸の息づかいをすることである。腹の息を胸に上げ、腹で吐いて吸った息を更に胸で吸い(引く)、そして吐くのである。これで技の切れはなくなるはずである。
しかし、この腹と胸の息づかいは容易ではない。この腹と胸の息づかいは布斗麻邇御霊の息づかいであるが、稽古を要するだろう。

この腹と胸の息づかいができるようになり、技が切れなくなるようになると、この呼吸は阿吽の呼吸でできることがわかってくる。アウンのウーで腹と胸での息づかいをするのである。これが、合気道の技は、結局、阿吽の呼吸で収めなければならないという事だと考える。