【第852回】 親指で肩を貫く

合気道の技をつかうためには肩を貫かなければならないと書いてきた。稽古を続けるにしたがって、その正しさを実感する。
肩を貫かなければ、肩から下の腕力になり、強力な武道の力は出ないだけでなく、肩を壊すことになるのである。さらに、肩を貫かなければ魄の力のままで気が出ないし、魂の稽古に入れない事もわかってきた。

これまでは、肩を貫くためには肩を十字にかえさなければならないと書いた。  手を上げて横に伸ばして上げると縦、横、縦とつかうのである。そして、慣れてくれば、手を上げながら胸を張ると肩が貫けると書いた。
しかし、これでは肩が貫けて体(腹)の力が手先に伝わるまで時間が掛かりすぎて、技につかうには不完全であると思っていた。思った瞬間に肩が貫けるためにはどうすればいいのかを考えていたが、それがわかった。

肩を貫いて、思い通りに手や技をつかうためには親指に働いて貰うのである。親指を土台として手の平の小指側に働いてもらうのである。親指を土台の体としてつかい、小指・手刀(小指の下から手首までの部位)を用としてつかうのである。

親指に働いてもらうためには、手の平がしっかりしていなければならない。手の平がしっかりするとは、手の平が気で張っているということである。
初心者の多くの手は指先がちぢんだ弛んだ手である。これでは力が出ない。手は親指と他の四本の指、そして手掌(しゅしょう)が張っていなければならない。しかし、これは意外と難しいようだ。ただ、手の平を拡げようとしても力みでやってしまうので、思うように広がらないのである。息づかいや気づかいでやらなければならないのである。

手の平を拡げ、張るための最初の方法は、イクムスビの息づかいでやるのがいいだろう。イーと息を吐きながら手の平を手先方向に伸ばし、クーで息を引き乍ら手の平を手先方向と直角の横に拡げ、更にムーでその手の平を手先方向に伸ばす鍛錬をし、それを技につかっていけばいい。

次に、新しい、効果的な方法である。上記のように気で張った手の平の親指に息・気を入れて土台にし、息を吐いて手先を手先の先(前)に進め、息で手の平を返すのである。親指を支点として小指側を時計回りや反時計回りに返すのである。
親指に十分な力と気が満ちれば、不思議なことに肩が自然と貫けるのである。
故に、技を掛ける際に親指がしっかりしていれば、自然と肩が貫け、体(腹・胸)の力が手先に集まり大きな力が出ることになるわけである。
親指と肩は繋がっていて連動するということになるが、これを合気道の技づかい、体づかいに活用したわけである。
尚、東洋医学には、肩がこった場合は手の親指の付け根のふくらんだ部分をもむという治療法があるから、親指によって肩のロックが外れるというのは法則ということになるだろう。