【第849回】 手先は体の中心を

合気道の技は手で掛けるので、手の働きは大事である。手に上手く働いてもらうためには、手を上手くつかわなければならない。つまり、手が一人で好きに動くのではなく、何かで手にこう働けと指示し、手がその指示に従って働くことだと思う。
その“何か“は心と体である。そして心と体を結ぶ気である。

手の働きの大事な事に次の二つがあると考える。一つは、手を縦と横の十字に働かす。二つ目は、手先を体の中心を動かすである。
まず、手の十字であるが、手を縦横十字につかうにも幾つかの意味がある。一つは、イクムスビの息づかいで、手をイーで手先方向に縦に伸ばし、クーで手を手先方向に対して直角の横に拡げ、そしてムーで縦に更に伸ばす。二つ目は、手先(手の平)を地に対して直角(縦)から天や地に対して平行(横)、そして縦に返すことである。三つ目は、手先と腹を結び、腹を前足先と十字に返すことによって、手が腹と共に十字に返る事である。

次に、手先は体の中心を動かなければならないである。技を掛けていると分かると思うが、手先の動きの軌跡が体の中心にないと、手の力が腹から出ずに、強力な力は出ない。過って、本部道場で教えておられた有川定輝先生は、手先が体の中心線を1cmでもずれたら技にならないと言われていた。
しかし、手先が体の中心を移動するのは容易ではない。まずは、意識して体をつかって、手を働かせなければならない。

手先が体の中心を動くためには、手先と腹が結び、腹で手先をつかわなければならない。手先だけで体の中心を移動しようとしてもそれは不可能である。
また、手先と腹をただ結んだだけでも手先は体の中心を移動できない。
手先が体の中心を移動するためには、腹が十字に返る事である。十字に返っている腹と手先が結んで、腹で手先をつかうということである。腹が十字に返る形は、うぶすのやしろの構えである。このうぶすの社の構えから腹で手をつかうということである。つまり、手先を体の中心につかうのは腹であり、腹が主役ということである。これを大先生は、「武は技と光を結ぶことに力を入れなければなりません。その結びは中心がなければなりません。中心があるから動きが行なわれるのであります。中心は腹であります。腹がガッチリしていれば、心は正勝・吾勝に精進できます。」(合気神髄 P.68)と言われている。