【第840回】 手足腰腹を陰陽十字で

前回の第839回「足も十字に」で書いたように、足は十字々々につかわなければならない。前回の論文の中の大先生と有川先生の写真が示しているように、足は十字々々(撞木)でつかわれているし、実際、足を十字につかって技を掛けたり、剣を振ると手が陰陽に働いてくれるので、足の十字は不可欠であると確信した。
これまでも左右の手を陰陽につかって技を掛けてきたつもりではあるが、十分な陰陽の働きがなかったことを痛感したわけである。
特に、正面打ち一教で最初に出す手は力強く出るが、次の陰から陽に変わる手が弱く、十分な陽の働きが出来ないのである。これらの問題を解決してくれるのが足の十字なのである。

しかしながら、足を十字々々につかうことは容易ではない。只、思っただけでも願っただけでも足は十字になってくれない。やるべきことをやり、鍛えるべき部位を鍛えなければならないからである。
足が十字々々に働くためには、まず、腰腹に働いてもらう必要がある。合気道で技をつかう際に働く主な体の部位は、腰腹、足、手であり、この部位の働かす順序は、腰腹⇒足⇒手である。従って、十字の足は、腰腹でつくることになるわけだから、腰腹が十分に働いてくれるようにしておかねばならないことになる。腰腹の鍛練をしていなければ、腰腹は十字に返らないから、足も十字にならないし、十字々々でつかえないことになる。
単独での一教運動や相対での技稽古で、腰腹を十字々々に返し、腰腹を柔軟強固に鍛えることが必要になるだろう。

腰腹の力が陰の後ろ足から前足に掛かかると、その力が踵から母趾球(ぼしきゅう)に移動し、これまで相手の縦方向を向いていた足の指先がこれに対して十字に返り、最初の足の十字が反転したことになる。合気道の手と足は同じ側が一緒に働くから、これまでの手は陽から陰に控え、陰にあった手が陽になる。腰腹と連動し、地からの力加わった力なので、予想以上の相当な力なのである。これによって、先述の問題の二番目の弱い手の問題が解決されるのである。
一教のポイントはここにあったようである。故に、この後の処理は、十字々々を繰り返していけばいいことになる。

腰腹によって足が十字々々に働くようになれば、腰腹と結んだ手も足と一体で働いてくれるようになる。腰腹、足、手が一体化して自然に働くのである。これまでになかった感覚になり、これが合気道の素晴らしさ、凄さであると実感できるのである。
手足腰腹を陰陽十字でつかっていかなければならないとつくづく思い知らされた次第である。