【第837回】 くっつく力

気が自覚でき、多少つかえるようになると技が変わってくる。これまでの腕力、体力に頼った技づかいから、気力の技づかいになり、力の量だけでなく、力の質も変わってくる。気は力の大王であるといわれるように強力な力がでるようになるし、相手をくっつけてしまう、引力を有する力が出てくるのである。己の体に気が満ち、その気で相手に触れ、技をつかうと相手の荒ぶる気持ちは消え、相手の肉体と気持ち(心)もくっつけてしまい、こちらの思う通りに動いてくれるようになるのである。

そこで何故、気が出て、相手はくっつける引力が出るのかを改めて考えてみた。
これまでは、気は十字で生まれると教わっているので、体と息を十字々々につかって気を生み出して来た。手は縦(手先の方向)にイクムスビのイーと息を吐いて出し、次にクーと息を引いて手を横に拡げ、そしてムーと息を吐いて更に手先を伸ばすと手に気が生まれるのである。諸手取呼吸法等で相手が手首をしっかり掴んでいる場合、この十字で気を出してやらないと上手くできない。
また、正面打ち一教でも手と足は十字につかうことによって気が出て、気で技と体をつかうことができるようになるし、二教、三教でも手、足、腰などの体と技を十字につかう事によって気で掛かるのである。

それでは、イクムスビの息づかいと体の十字によって、何故、力と引力が生まれるのかということである。
そのヒントになるのが相撲の四股である。相撲は四股踏みが大事であるというのである。そして、「われわれ人間の体も、骨という圧縮材を筋肉や筋膜という張力材がつないでいるテンセグリティ(張力統合体)構造に他なりません。」、また、「四股を繰り返し踏むことで、筋肉や筋膜の張力がバランスよく整えられていきます。」(「四股鍛錬で作る達人」松田哲博著)という。

合気道ではこの筋肉や筋膜の張力がバランスよく整えるために、体と技をイクムスビの息づかいでつかい、更に気をつかう。引く息で筋肉や筋膜に張力が生じ、骨や関節を結び、気で満たし、強力な力を生じるということになるだろう。これがくっつく力、引力を発するのではないかと考えている。


参考資料 「四股鍛錬で作る達人」松田哲博(元一ノ矢・相撲探求家) BABジャパン