【第835回】 縦の動きを大切に

手や腹など体を練り、気を練って養成する最適な稽古法は呼吸法であろう。呼吸法には、片手取呼吸法、諸手呼吸法、坐技呼吸法の他、両手取呼吸法、後両手取呼吸法、二人掛け諸手取呼吸法、三人掛け諸手取呼吸法、後片手取り首絞め呼吸法等などまだまだあるが、基本の呼吸法は片手取呼吸法、諸手呼吸法、坐技呼吸法であろう。つまり、この三つの呼吸法が上手くつかえなければその他の呼吸法も上手くつかえないし、四方投げ、二教、三教等々の他の技も上手くつかえないということになる。
これは以前から書いているが、「諸手取呼吸法が出来る程度にしか技はつかえない」という有川先生の教えでもある。

己の力(体力)や気力がどれほどのものかが最も分かり易いのは諸手取呼吸法であると考えている。また、有川先生の教えもあるので、力をつけるために出来るだけ諸手取呼吸法をやるようにしている。稽古時間の前や後にやっている。やっては反省し、研究し、またやっては反省を繰り返している。10年以上になるだろうが、これでいいという終わりはないように思っている。

自分が稽古を積み重ねてきたことによって、相対する相手や周りの稽古人のことも見えてくる。みんな自分と同じ失敗をしたり、悩んだり、壁にぶち当たっていたりするのが見えるのである。
最近の諸手取呼吸法で見えてきた事であるが、受けの相手は諸手(二本の手)で取りの一本の手を掴むわけだから、その諸手を制するのは容易ではない。掴ませた手を思い切り動かし、手を上げてつかおうとするので、力は出ないし、肩に力がきてしまい肩を痛めることになるのである。多くの後輩はこのように手で上げようとしている。

掴ませた手を上げるという事は、手先と腹の結びが切れるということであり、手だけの動きとなり、十分な力が出ないだけでなく、肩にぶつかり肩を痛めることになるわけである。
それではどうすれば、手に十分な力が出るようになり、相手を制するようになるかである。
それは、手を動かすのでは、手が動くようにするのである。手先と腹を結び、腹を動かせば腹と結んだ手は動いてくれるのである。
しかしこれだけでは不十分なのである。何故ならば、手先と腹を結んで腹を動かすのは、所謂、横の水平の動きである。手を出して、手を掴ませ、掴ませた手を返すのも横の動きであるから、横⇒横となり宇宙の法則に合していない故に、力が出ないのである。因みに、腹も体もそして足も同じように横⇒横なのである。

それではこれをどうすれば大きな力が手に集まり、相手を制する事ができるようになるかということになる。
それは手、腹、足、体を横⇒縦(⇒横⇒縦)とつかうことである。
具体的に説明すると、ウの言霊で○━と横に動いたら、次に○|に下すのである。○━は股関節が横に開くことであり、○━で股関節が開くことによって手、足、体が○|と下に下りる。この下りる感覚は四股踏みの要領で得られる。
慣れてくればここで気を下ろすのであるが、はじめは四股踏みの要領で手、腹、体を地に下せばいい。
手、足、体が○|と下に下りると反対側の手、腹、体が天に上がり、そして足が地に下りる。この足が地に下りる時に相手が掴んでいる手が動き、相手を導けるのである。動かそうとしなくても動くのである。足がしっかり地に着けば、地の気が持たれた手に集まり、動かしてくれるということである。
縦の動きによって技もうまくつかえるし、肩を痛めることもなくなるはずである。

手や上半身だけでなく、足や下半身のつかい方、また、水平の動きから垂直の動きを研究するのがいいと思う。