【第827回】 朝の目覚め

一日24時間の内、人は覺睡と睡眠を繰り返している。脳は覺睡中に大量の情報を処理し、そして睡眠中には異なる働きをする。記憶を選んで固定し、新たな学習の準備をするという。(朝日新聞 天声人語)
合気道の稽古を考えてみても、起きている時は脳が働いていることが意識できる。脳は技の精進や体の働きのために大量の情報を集めたり、捨てたり、整理したり、出したりして働いいてくれているから、安心して稽古が続けられるわけである。また、脳の働きの限界もわかる。これはこの脳には難しすぎる、能力の限界であるなど誰でも分かるし、体験しているはずである。
勿論、覺睡中でも脳の働きなど大部分は分からない。分かると言っても、言ってみれば、睡眠中に比べればその働きが少し分かるという事である。

睡眠中の脳の働きなど分からない。「記憶を選んで固定し、新たな学習の準備をする」などというのは、脳の専門家が研究した結果で、我々一般人が見つけた事ではないし、分かる事でもない。しかし、この理論は我々の日常生活に適合しているように思う。合気道の稽古を一生懸命にやって、いろいろ煩雑な情報を持ち帰ってくるわけだが、その煩雑な脳も寝ることによって、翌朝、頭はすっきりする。もし、寝ないでそのままの頭(脳の状態)で再び稽古にいったなら、頭の中はぐちゃぐちゃで、次のいい稽古を出来ないはずである。脳は睡眠中、必要な情報を固定し、不必要な情報を排除してくれ、次の稽古への準備をしてくれるのだろう。

さて、人の日常生活に覺睡と睡眠があるわけだが、もう一つの時間があり、最近はこの時間を大事にしている。
それは、朝の目覚めの時間である。睡眠から覺睡の間の時間である。何故、この朝の目覚めの時間を大事にするようになったかというと、必要とする情報、これまで分からなかった事、どうすべきなのか等を脳が教えてくれるからである。また、この事はこの本に書いてあるとか、探し物はここにあるだあろう等という情報も与えてくれるのである。こちらがお願いもしていないのに、ご親切に脳が教えてくれるのである。
これらの情報は、睡眠中は勿論のこと、覺睡でも得られない。勿論、何もない時もあるが、真剣に考えたり、悩んだりしていると朝の目覚めの時間に教えてくれることが多い。修業している合気道の技が変わっていったり、合気道の論文が続いているのもこのお陰なのである。

これまでは、目が覚めたらぐずぐずせずに床を出る、床離れのいいようにすべきとやってきたが、朝の目覚めの時間を楽しむようになった。長い時は1時間ほどになる。年を取って時間はあるから、時間に関してはあまり問題ない。まだ働いている方には難しいだろうが、その内いずれ時間がとれるだろうから、その時、朝の目覚めの時間を楽しめばいいだろう。高齢者の特権である。

朝の目覚めの時間は幽界のようにも思える。従って、覺睡時は顕界、そして睡眠時は神界ということになるだろう。
朝の目覚めの時間を楽しむ事は、幽界に遊ぶ事にもなるだろう。


参考資料 朝日新聞 「天声人語」 2022.2.6