【第826回】 日々新しく

人間もすべての生物には寿命があり、年を取りながら死んでいく。これは人間や生物の宿命である。ということは宇宙の法則である。
合気道は宇宙の法則に則って技や体をつかって精進しているが、科学の世界にも宇宙の法則がある。その一つが、今回のテーマにしようと思っている「エントロピー増大の法則」である。
エントロピー増大の法則とは、「宇宙は常に秩序から無秩序に向かって変化していて、自発的に元に戻る事はない」と謂われる。これをもう少しわかりやすくいえば、「すべての事物は、それを自然のままにほっておくと、そのエントロピーは常に増大し続け、外から故意に仕事を加えてやらない限り、そのエントロピーを減らすことはできない」となる。(Microsoft Bing)
この法則の分かり易い実験として、水の入ったコップに牛乳を垂らせば、牛乳が拡散し、薄くなり消えていくのを見ればいいだろう。
万有万物は生まれた瞬間からカオスに向かい、そして死に向かっているわけである。人の体も初めは秩序だって機能しているが、年を取るに従ってその秩序は乱れ、無秩序に向かうということでもある。

エントロピー増大の法則を知った事により、大先生のある教えの意味がようやく分かった。それは、「合気道は日々新しく天の運化とともに古い衣を脱ぎかえて、成長、達成、向上を続けて研修しておるのであります。」(合気神髄P.179)や、「昔は鳥船の行事とか、あるいは振魂の行事、いままでの鳥船や振魂の行ではいけないのです。日に新しく日に新しく進んで向上していかなければなりません。それを一日一日新しく、突き進んで研究を、施しているのが合気道です。」(合気神髄P.101)である。
宇宙の営みを形にした技や先人から受け継いでいる行事を日々新しくしていかなければならないといわれているのである。技や形など不動・不変のものがあるので目標が定まり、励みになるのだが、不動・不変などなく、あってはならないと言われているのである。面食らってしまったのは当然だし、不可解だったのも当然だったろう。

しかし、万物は只このエントロピー増大の法則に従ってはいないようであり、無秩序へのカオスや死を出来るだけ遅くしたり、避けようとしているように思う。例えば、人の細胞は分解し、合成し、そして再生を繰り返しているが、これに何かを加えて、エントロピーを減らそうとしているのである。
我々合気道家にとって、その典型的なものこそが禊ぎの合気道であろう。
合気道は禊ぎであるといわれるのは、エントロピーを禊ぐということにもなるわけである。

しかし、大先生は、禊ぎの合気道を只、日々同じにやっていては駄目だといわれているのである。その理由こそが、この宇宙はエントロピーが増大し、カオスに変化しているわけだから、宇宙の法則に則った技や体づかいもそれまでと同じようでは、同じようにエントロピーが増大してしまうから駄目だというのである。日々新しく天の運化とともに古い衣を脱ぎかえて成長、達成、向上を続けて研修していかなければならないわけである。

因みに、「昔は鳥船の行事とか、あるいは振魂の行事、いままでの鳥船や振魂の行ではいけないのです。日に新しく日に新しく進んで向上していかなければなりません。」とあるが、鳥船や振魂の行を教わった通りではなく、そこから新たなやり方で進んでいかなければならないということである。例えば、鳥船の行でもやれることは幾らでも有る。息づかい、体の移動、腰の十字、折れ曲がらない手・腕づくり、肩貫く、肩を固める、気の鍛練等々。また、鳥船の行の体勢でも、半身、正面、一重身の基本形があるが、更にあるはずである。
鳥船の行でも日々新たな事を身につけ変わっていく事ができる。ましてや技に於いてもやである。どのように変わっているのか、変わっていけるのかは、これまでの論文に書いてあるし、これからも書いていくつもりである。