【第826回】 身体も十字につかう

合気道は十字道であり、手、足、腹を縦横十字につかって技を生まなければならないと書いたが、更なる十字が必要であることがわかった。
それは身体である。これまでは身体の部位である、手や足や腹の十字であったが、この度は身体全体の十字である。身体を縦⇒横⇒縦・・・と十字につかうということである。

身体を縦横十字につかうとは、身体が天と地と縦に結び、次にその身体が腹と足の横の移動によって横に動くことである。一見難しそうに思うが、人は誰もがやっている、ごく自然な動作である。例えば、歩行はこの縦横々々でやっている。身体を立てて地を踏み(縦)、次に足を横に出して身体を横に移動し、縦に着地、そして又横に移動し、縦に着地を繰り返している。
先ずは縦に地を踏むことであるが、しっかりと地を踏み、身体を縦に下すことである。そのためには、その前に天と結ばなければならない。因みに、通常の歩行も縦の上下から横にと、縦横の順であるが、鳥が飛び上がるのも縦から横であり、決してその逆ではない。また、昔、ハイジャンプをやっていたが、これも縦から横であった。つまり、縦から横は(宇宙の)法則ということであると思う。

その天と身体を結ぶものは呼吸である。これを大先生は天の呼吸と謂われているし、また日月の息とも謂われている。縦の呼吸の天側の先を日、地側の先を月ということで、横の地の呼吸(潮の満干)と区別されているのだろうと思う。
天の呼吸・日月の息で身体が天地と結ぶと、次に、地の呼吸の潮の満干で身体は横に移動し、技が生まれる。つまり、天地の呼吸と身体の縦横十字によって技が生まれるという事である。
これを大先生は、「天の呼吸との交流なくして地動かず、ものを生み出すのも天地の呼吸によるものである。武も妙精を腹中に胎蔵してことたまの呼吸によって科学しながら生み出していくのであります。天の呼吸は日月の息であり、天の息と地の息と合わして武技を生むのです。地の呼吸は潮の満干で、満干は天地の呼吸の交流によって息をするのであります。天の呼吸により地も呼吸するのであります。」(『武産合気』P.76)と教えておられるのだと思う。
これは身体を縦、横、縦・・・と十字につかって技をつかえという教えでもあると云えよう。これにこれまでの手と足と腹の十字を加えていけば、更にいい技が生まれることになるだろう。