【第823回】 手を名刀のようにつくり、つかう

合気道の動きや形は剣からきていると教えられている。合気道は基本的に徒手空拳であるので、手を剣としてつかうことになる。手が名剣のようにならなければならないし、つかわなければならないことになる。鈍刀のようななまくらな手ではいい技が生まれないということである。

それでは手をどのようにすれば名刀のようにつくることができるかということになる。尚、手というのは、手先から胸鎖関節までをいう。
まず、手が名刀のようにならなければならないと意識することである。ただ稽古を続けて行けば自然と手が名刀になることはないと思うからである。意識の度合いや努力によって名刀化の早さと深さかが変わるはずである。

次に、名刀になるべく、やるべき事をやることである。多くの合気道家はこれを信じないようだが、やるべき事はあるし、それを身に着けないと技も合気道も精進できないのである。何故ならば、合気道は科学であるからである。
手の名刀の条件は、まず、手先の指、手首、肘、肩で折れ曲がらない事である。手先から肩まで一本になる事である。そのためには、手の指、手首、肘、肩、胸鎖関節のカスを取り除かなければならない。カスの取り除き方は前に書いているので省く。

次に、カスが取れた一本の手はこの段階では棒のようなもので、刀にもなっていないから、これを刀にする。そのために、この手を息で強固・柔軟にするのである。手を出して、イーの吐く息で手先を伸ばし、クーの引く息で手先と手全体を更に伸ばし、ムーの吐く息でまた更に伸ばすのである。これで棒の手から刀の手に変わったと実感出来るはずである。だが、この剣はまだ鈍刀でものが切れるという感じがしない。

そこで次の段階になる。イクムスビの息づかいに代えて布斗麻邇御霊とアオウエイの言霊をつかうのである。イクムスビよりも強力な力が出るだけでなく、気が生まれるのである。手だけではなく、体全体が気で満ちるのである。
しかし、これでも手は名刀にはなっていない。刃筋が十分に立っていないのである。これでは切ってもスパッと切れない。刃筋が立つような手にしなければならない。
刃筋を立てるための主役は手の親指である。技を掛ける時に手をつかう際、親指を動かさず、支点として、手の平と手を前後左右に動かさなければならないと、以前にも書いたようにつかうのである。親指を支点の体にし、小指側を用としてつかうと刃筋がつくられるのである。尺骨の下が刃になるわけである。また、親指に気を流すと、親指、そして手の平が腹としっかり結び、手のブレがなくなり、手先が体の正中線を動くことになる。
諸手取呼吸法はこの刃筋が立った手をつかわなければならないはずである。また、一教でも四方投げでもこの刃筋を立てた手でやらなければならないはずである。

手に刃筋を立てるために、支点(体)となる親指をしっかり鍛えなければならない。これまでの息で鍛えることもできるが、気で鍛えるのがいい。親指も気を流し、気で満たし、そして気でつかうのである。この鍛錬ができるようになれば、気というものが分かってくるはずである。逆に言えば、気が分からなければ、まだこの鍛錬、ここまでの鍛練が不十分であるという事になる。