【第816回】 体幹をつくる

「合気道の思想と技」の「第812回 二度開く」で、手先と胸を二度開かなければならないと書いたが、今回はこの続きになる。この胸を開くを更にすすめて、体幹を開く、そして体幹をつくるということである。
相対稽古で技を掛けていくとわかってくるはずだが、技が効くためには、手や足の体の末端がしっかりしていなければならない事はこれまでの研究でわかったが、体の大本の体幹は更にしっかりしていなければならないことが分かった。これまでは、手や足を鍛え、陰陽十字などの法則に合してつかってきたわけだが、ある程度の成果があったものの、まだ、十分な力が発揮されていなかった。自分が出した気や力が相手とぶつかって、戻ってきたり、己の体や動きがどっしりせずに、不安定だったり、自然の動きの軌跡ができないのである。

そこで前出しの論文にあるように、手先を開いて、胸を開いて技をつかうと、大分大きな力も出るし、体がどっしりと安定するようになった。
これで稽古を続けていると、胸を開くよりも体全体の体幹を開いた方がいいことがわかったのである。そこで手を開き、胸を開き、そして体幹を開くことにしたのである。
体幹を開くようにすると、手そして足も体幹と結び合い、手と足と体幹が一つになり一つの体として働くようになるのである。相手と接する手先には体の力と重さが集まり、大きな力、安定した力が出るようになるのである。
その理想的な例が下記の写真である。故有川定輝先生の手と体幹が開いた姿である。

有川定輝先生 1996年
それでは体幹を開くとはどういうことなのか、そしてどうすれば体幹が開けるようになるかということになる。
体幹を開くという事は、体幹を拡げるということでもある。何で拡げるかと云うと、息と気を体幹に満たすことである。
しかし、体幹を開くために、息と気をつかうのは容易ではないだろう。日頃の稽古で、技を息と気で掛けていなければ出来ないと思うからである。先ずは、技と体を息で掛け、息でつかうようにしなければならないだろう。
初めの息づかいはイクムスビであろう。イーと息を吐いて、クーと息を引き、そしてムーと息を吐いて技を収めるのである。この後は、スーと相手と離れて間合いを取り、ビィーのイーで初めに戻るのである。
この息づかいで技をつかうのである。イクムスビの息づかいで技と体をつかっていくと、気を自覚するようになり、息よりも気のほうが有効であることが分かってくるはずである。
因みに、イクムスビを息でやっている内は魄の領域の稽古であり、気でやるようになれば魂の領域の入り口に立ったといえると思う。従って、気でやる方がいいことになる。

前出しの論文で説明しているが、もう一度繰り返す。胸を開く、そして体幹を開くためには、先ず、手先を十分に開くことである。縦に出した手先を今度は横に十分開き・拡げるのである。手先が開く・拡がると、体幹が自然と気で満たされ、そして拡がり、膨らみ、開くのである。
これはイクムスビの息づかいでもできるが、阿吽の呼吸でもいいだろう。しかし、一番いいと思うのは、やはり布斗麻邇御霊の息・気づかいであると考えている。