【第814回】 宇宙の終わりに何が起こるか、どうするか?

合気道の修業の最終的な目標は、小乗的には宇宙との一体化であり、大乗的には宇宙楽園の建設である。それ故、宇宙の営みや法則に則った技を身に着けるべく稽古に励んでいるわけである。そして合気道の教えでは、宇宙の事が分かってくれば、己の事(精神と肉体)も分かってくるというが、正しく、その教えは正しい事も分かってきたところである。そして更に己と宇宙を知るべく、相対での技の稽古や禊ぎの他に、書籍やTVで更に宇宙を知ろうとする事になる。例えば、イギリスの理論物理学者、スティーヴン・ウィリアム・ホーキング(Stephen William Hawking)の本は、何冊か読んだし、NHK TVの「コズミック フロント☆NEXT」をはじめ、「NHKスペシャル」「サイエンスZERO」など、宇宙をテーマにした番組は欠かさず見るようにしていた。

最近、『宇宙の終わりに何が起こるか』(ケイティ・マック著、吉田三知世訳 講談社)を読んだ。我々、合気道を修業する者たちにとってショッキングなタイトルの本だからである。宇宙と一体化になり、宇宙の楽園を目指す者たち取って、宇宙が終わりを向かえる事と、また、宇宙がどのようにして終わるのかを、理論物理学で書いているわけだから、無視することは出来ないわけである。
通常、このようなショッキングの本にはまやかしものが多いのだが、出版社が講談社なので、信用することにして購入した。また、帯には、「19か国で翻訳!」とあることも読んでみようという気にさせてくれた。著者はノースカロナイナ州立大学物理学科助教をしている理論物理学者である。
このショッキングなタイトルの本の趣旨は、二つある。一つは、この宇宙は必ず終わるということ。二つ目は、この終末シナリオは五つあるということである。

宇宙に関しても多くの学者が研究をし、また、新たな発見をすべき競い合っている様子がこの本から分かる。そしてこれまでの仮説が事実であることもわかってきたという。
例えば、初期宇宙は一つの巨大な炎だったという仮説も、現在では、高温の初期宇宙の輝きを収集し、解析し、マップ化することによってその正しい事が分かったという。また、今、宇宙は膨張しているという。それがどのようにして分かるのかというと、遠い銀河どうしの距離が開いている事からわかるという。
また、合気道で云う、宇宙と人体は同じであるということも、次のように書かれている。「あなたの体内にある重い元素――酸素、炭素、窒素、カルシュウムなどーーは、恒星の爆発の際に生じた」。「だから、確かにあなたは、自分の中に大昔の世代の恒星たちの星屑を含んでいる」「私たちは、宇宙が自らを知るための手段なのだ」と。

しかし、ここでの大事なテーマは、宇宙は五つのシナリオで終わるである。つまり、五つのシナリオがあるから、万物は究極的に破壊されて宇宙は終わるという事である。
著者はそのシナリオは次の五つであるという。

  1. ビッグクランチ: 急激な収縮を起こし、つぶれて終わる
  2. 熱的死: 膨張の末に、あらゆる活動が停止する
  3. ビッグリップ: ファントムエネルギーによって急膨張し、ズタズタに引き裂かれる
  4. 真空崩壊: 「真空の泡」に包まれて完全消滅する突然死
  5. ビックバウンス: 「特異点」で跳ね返り、収縮と膨張を何度も繰り返す 
このシナリオで宇宙が終わるという事にも興味があるが、最も興味があるのは別にある。
それは、このように宇宙が終わりを向かえることを研究し、そして科学的に宇宙の終わりが来ることが分かった科学者が、それをどのように思い、更なる研究と生き方をしようとしているのかである。一般的人たちなら、どうせ宇宙が破壊されて終わるのだから、研究を続ける意味がないし、一生懸命に生きる気になれない等であろう。
この本の最終章には、幾人かの物理学者のその考えを次のように紹介している。(氏名・所属・役職等は省略する) さて、本論文テーマの結びである。それは、宇宙の終わりがいつ、どのように終わるかが科学的に分かった時、われわれ合気道家はどうするかということである。
どうせ宇宙が終わって、万有万物が破壊され、地球も人類も消滅するのだから、稽古・修業を止めてしまうのか、または、上記の物理学者たちのようになるかである。
先のこと、恐らくこの宇宙終焉は、早くとも、アンドロメダ銀河と私たちの天の川銀河と衝突する40億年ほどのようなので、切実さは無く、口先だけ、頭だけの考えかもしれないが、それでも考えておくことにする。
私としては生きている限り、そしてたとえ明日にも宇宙が終わるという事になるとしても、合気道の目標に一歩でも近づくべく、禊ぎをし続けたいと思う。恐らく、道場は締まっているだろうから、独りでやることになろう。最後の最後に、自分がどこまで目標に近づけたかを確認して終わりたいと思っているからである。間違いなく、ここが最高地点であるはずだ。自分のレベルアップ。これが宇宙の終わりよりも大事であるということになる。一寸、残念なのは、書き留めた論文が後世・後輩に遺してやれない事である。
尚、人は、そんな格好よくやれるのかと思うかも知れないが、別に、特別ではなく、みんなやっている事である。人は、いずれ死ぬということを知りながらも一生懸命に生きているのである。