【第812回】 縦と横と十字に

合気道の技は、体を縦、横、そして縦とつかうように出来ているし、つかわなければならない事はこれまで書いてきた。実際、これでやれば技は効くようになるし、そうでなければ効かない。例えば、諸手取呼吸法などその好例である。諸手取呼吸法ができないのは、力不足もあるが、手と足を縦、横、縦につかっていない事にあると見ている。

さて、この合気道の体づかいは、合気道独自のものであるか、武道独自のものであるかという疑問が出てくる。もし、合気道や武道独自のモノであって、日常生活の体づかいには関係がないとしたら、合気道や武道を修業する意味が半減する事にもなるだろう。
しかし、その心配は無用のようだ。日常生活での体づかいを観察してみると、合気道のこの縦、横、縦の体づかいは日常生活に於いてもやっているのである。例えば、歩く際、歩を進めて地に着く際は、足は天地方向の“縦”に下り、次にその足が“横”に開き、また、引き続き他方の足も“横”に開き、そして“縦”に下りるを繰り返しているのである。
日常生活ではこの縦、横、縦・・・の足づかいを、通常はほとんど意識しないが、山登りや階段をのぼる際、特に疲れている場合などには意識するはずである。

日常と武道の体のつかい方の違いを見てみると、
日常生活の場合は、一つは、体のつかい方はあまり意識しない。二つ目は、体は適度につかっていることである。適度というのは、許容範囲内でということである。
稽古の場合はこれに対して、一つは、体を、特に初めは、意識してつかう。二つ目は、技を効かせるためには、体を許容範囲極限、又はそれ以上に出したり引いたり、伸ばしたり、拡げたりしてつかうということである。例えば、“縦”にしっかり足を下ろす、腹、膝、足首などを“横”に返し、そして又“縦”、“横”・・、に“しっかり”と返していくのである。この“しっかり“が大事なのである。この“しっかり“とは、前出しの”許容範囲極限、又はそれ以上“ということである。何故、このしっかり”が大事かと云うと、このしっかりした“縦”が“横”、そして”横“が”縦“につながり、十字になり、そして気が生まれるからである。つまり、体が“縦”が“横”、そして”横“が”縦“が十分でないと、気も生まれず、力も出ないという事になるわけである。

それでは、体の手や足が“縦”、“横”、“縦”・・・としっかりと機能するためにはどうすればいいかと云う事になる。二つある。
一つは、息づかいでやることである。初めはイクムスビの息に合わせてやればいい。イーと息を吐きながら、足や手を縦に伸ばし、クーと息を引いてそれらを横に返し、そしてムーで縦につかうのである。
これに慣れてくれば、次に阿吽の呼吸でやればいいが、最良の方法(今の時点に於いて)は、やはり布斗麻邇御霊に合してやることだろう。

二つ目は“気”でやることである。息でやっていくと気づくのだが、息には限界がある。思うように、長くも強くもできないのである。技の途中で切れてしまい、吐いていなければならない所を吸ってしまったり、吸い切らないで吐いてしまったりする。
この息に代えて気でやるのである。息である程度(換言すれば、息をイクムスビで限界までつかえるようになる程度)できるようになれば、その息の代わりに気でやるのである。不思議な事に、息が気に代わって働いてくれているはずである。そしてこれが気と実感できるはずである。気は力の大王ともいわれ、大きな力が出るだけでなく、気は自由なので、思うように長く出し続けることも出来るのである。