【第804回】 衰える高齢者の体づくり

高齢になってくると、人の体は衰えてくる。何時、どのように、どれだけ衰えるかは、人それぞれ違う。
確実なのは、衰えは必ずやってくる。人は25才を過ぎる頃から、衰えが始まるといわれるから、25才から衰えが始まっているわけだが、高齢になってのそれに気づかないか、気にしないか、無視しているだけなのである。そしてある時、己の衰えが無視できなくなり、戸惑うのである。
大事な事は、まず、己の衰えに気づくことである。合気道をやっていると衰えに気づきやすいはずである。日常生活よりも体と力を集中してつかうから、気づきやすいのである。
次に大事な事は、その衰えを無視しない事である。若い頃のように、その内、良くなるだろうとは思わないことである。
そして、三つ目は、その衰えに対処することである。鍼灸師やマッサージ師などに任せるのではなく、先ずは己で対処することである。己が対処する利点は、衰えからの問題は一度きりではなく、その後にも引き続いて起こるから、その一つ一つの対処の経験とノウハウを積み重ねていけば、それを最後まで活用できるからである。これが進歩、精進であり、合気道の稽古と同じである。

その為には自分の体を知らなければならない。仲良くなること、そして体と対話をすることである。体とも仲良くなれば、体はいろいろ教えてくれる。
体と仲良くなるためには、体を大事に扱わなければならない。壊さないよう、痛めないよう、そして清潔に保たなければならない。また、感謝である。

さて、本題に入ることにする。タイトルは、「衰える高齢者の体づくり」であるから、まず、この“衰える高齢者の体“を考えてみたいと思う。自分自身の経験から見てみよう。いろいろあったと思うが、印象深いモノを取り上げることにする。

最初は、50,60才の頃の膝と腰であった。膝が痛くて着地の角度によって激痛が走り、また、腰も痛くて歩くのも、体を回すのも苦痛だったし、合気道の稽古も辛かった。
この原因は、体の裏側(胸、腹側)で歩いたり、技をつかったりしているためとわかり、体の表をつかうようにしたら、徐々に痛まないようになった。

次は、雪駄や靴で道を歩いている時、一寸した凸凹や段差でつまずくようになったことである。そしてたまに、つまずいて前のめりに倒れそうになったこともあった。
そこでこの原因を考えてみると、足が弱っているからだという結論に達した。よく足(脚)を見てみると、両足の筋肉が細く、貧弱になっているのである。過ってはパンパンに張っていた、太い筋肉が無くなってしまっていたのである。合気道の稽古をしているから、筋肉の衰えなどないだろうと高をくくっていたのが間違いだったわけである。
そこで、この対処として、足に筋肉をつけ、足を太くしようとした。道場稽古はこれまで通り続ける以外に、なるべく歩く事にした。出来れば最低毎日一刻(2時間)。駅などでエスカレーターは使わず、階段をつかう。また、家での禊ぎの中でと風呂やシャワーを浴びる都度、風呂桶に左右10回づつ上り下りすることにした。約二年になるが、足は筋肉がつき、太さも戻ってきたようだ。そしてつまずくこともなくなった。

三つ目は、体格の萎み、体重の減少である。これが最近の、そして最新の衰えであったと思う。体に張りも、光もなく、みすぼらしい体になっていくのである。お陰で元気も出ないようだし、稽古では力も出ない。
これでは不味いと思って、まず、三食しっかり、そして少し多めに食べることにした。沢山食べた後は、多少、体重が増えるが、またすぐに減ってしまうので、食べ物だけでは対処できない事がわかった。
そして、この衰えの問題は、意外な事から解決されたのである。それは半年ほど前から修練していた布斗麻邇御霊の息づかいである。この息づかいによって、腹が膨らみ、肩幅が拡がり(僅少)、胸幅が厚くなり、そして体重も2,3kg増えたのである。布斗麻邇御霊の息づかいは微妙で複雑であるが、特に、腹中での引く息と胸での引く息が、腹や胸や肩、そして手や足の機関と筋肉を大きく伸ばしたり、拡げたのだと感得した。
これは横の息づかいであるが、縦の息づかいもこの体づくりに貢献していることは確かである。縦の息は吐く息であり、体を上下に伸ばし、縮める働きをする。そしてこの横と縦の息づかいで十字ができ、そして気が生まれるのである。この十字は、布斗麻邇御霊の中で、腹中と胸中と頭中で生まれる。
気が生まれれば、体が活性化し、光も出る。

合気道を知らない人には、布斗麻邇御霊の息づかいをつかうのは難しいから、イクムスビのイーと息を吐き、クーで息を吸い、ムーで息を吐くの息づかいで体をつかえばいい。
因みに、高齢者の歩行を見ていると、息を吐いて体は縦には働いているが、横の引く息での体を横に働かせていない人が多い。これでは間もなく、歩くことが出来なくなってしまうだろう。息を吸って歩いたり、体をつかうようにすればいい。

高齢者になって、ここに紹介していない、いろいろな衰えがあったし、これからもあるだろう。これからも体と仲良くやっていくしかないだろう。