【第804回】 胸を拡げ、肩を開く

これまでは腹の力を手先でつかうために、手先と腹を結び、腹で手をつかわなければならない、そして腹の力が手先まで流れるために、肩が邪魔しないように、肩を貫かなければならないと書いてきた。これによって、それまでの手を振りまわしていた時よりも大きな力が出たことは間違いないので、これは身につけなければならない事は確かである。
しかし、これも十分ではない事がわかってきたのである。更に大きな力が出るようになるということである。

その秘密は肩である。しかも、これまでは肩を貫いていた肩を、今度は逆に固め、開くのである。肩で手を固定し、吊り下げ、動かし、つかうのである。以前は腹で手をつかってに対し、肩で手をつかうのである。勿論、肩は腹と結び、腹で動くので、正確に言えば、肩と手が連動して腹で動くことになる。
これで正面打ち一教や諸手取呼吸法をやると、これまで以上の力が出ることは確かである。
肩を開くと何かが起こり、そして摩訶不思議な結果をもたらすようである。

それでは、肩を開くとどうなるのか、肩を開かない場合とどう違うのか、どうすれば、肩が開くのか等を研究してみたいと思う。
まず、どうすれば肩が開くかというと、一番簡単なのは、物理的に胸を拡げればいい。しかし、これでは技に繋がらない。
そこで次に、技に結びつくために肩を開くためには、息で開けばいい。息づかい、呼吸で開くのである。尚、息は吐いても、また、吸っても肩は開く。例えば、アオウエイのアーと息を出しても、エーと息を引いても肩は広がる。

次に、肩が拡がるとどうなるかということである。肩が拡がっていない状態は胸が閉じている状態であるが、胸が閉じていると、手の重みは肩にきて、体の前面の腹、そして膝などにくる。
働くべく用の腹に手の重みがくるので動くことが容易ではなくなり、そうすると手先を振りまわすことになるので大きな力は出ない事になる。
また、手の力が肩と膝にも来るので、肩が凝ったり、膝を痛めることにもなる。

胸を開くと、手は肩で十字となり吊り下げられることになる。そしてその手の重さは、肩を通して腰、足の背面側に落ちる。
支点となる体の腰に力がくるので、腹を自在に動かすことができるし、体の表の背面の足や腰に力が集まるので大きな力が生ずることになるわけである。

肩を開く更なる利点がある。一つは、大きな力を出す地の息の塩涸珠(しおひるのたま)が働いてくれることである。肩が開いているから、ウーの御霊、そしてエーの御霊の塩涸珠が生まれるのである。これが最大の利点だろう。
二つ目は、肩を開くことによって、体を面にしてつかえることである。肩が開いていなければ、体は面にはならず、また、直線や円ではなく、歪んだ動きになってしまうのである。三つ目は、肩が開かなければ気が生じないことである。布斗麻邇御霊の気は、肩が開いていないと出ないのである。これが一番大事な事かも知れない。

合気の技を掛けるのは勿論のこと、剣を振るにも肩を開き、胸を拡げなければならないことがわかったわけである。