【第799回】 魄の力からの脱出

相対稽古で技を掛け合っていくと痛感するようになるのが“強い力”である。その典型的な例は諸手取呼吸法である。もう少し力があれば出来るはずなのにと思うものである。
実はここが大事な分かれ道なのである。そこから力が出るように稽古をするようになるか、そうでないかという道である。力が出るように稽古する道に進んだ方は、先ず、力不足を認識することが出来たことが何よりである。後は、ここからどうすればいいのかを試行錯誤していけばいい。問題意識を持てば、いずれ解決できるものである。

これまで“強い力”をどのようにすれば出せるかを何回も書いてきた。要は、手先と腰腹を結び、腰腹で手をつかえばいい。更に、足を陰陽につかい、腰腹は十字々々につかえば“強い力”が出るということである。これで諸手取呼吸法をやれば、大体は上手くいくものである。

さて、今回は更なる“強い力”を生み出すにはどうすればいいのかということである。これも諸手取呼吸法で説明することにする。
この生み出しの本はウの言霊と布斗麻邇御霊の働きである。
ア、オで天地と結び天地の力(エネルギー)を身に入れたら、ウの言霊で手を出して相手に掴ませ、腰腹を手先と十字になるまで横に返す。これで手先と腰が繋がり、腰の力が手先に流れるので相当強い力が出ることになるが、もう一つ先がある。この手先と腰腹を十字にしたら、更に手先を先に伸ばし、持たせている手首から上の腕、上腕、肩、胸を腰で縦に引くと、力が腹に集まって来る。そして腹で相手の諸手の力を受けることになるが、ここで不思議な事に相手が自ら浮き上がって、相手の諸手の力を感じないか、半減するのである。とりわけ、相手が倒れまいと、力を入れて引っ張ると、自分から浮き上がる。これが「合気道は相手の力を利用する」ということであろうと思う。

ここで大事な事は、手先、腕、上腕、肩、胸、腰をバラバラでなく一本にしなければならないわけだが、これは意外と容易ではない。
人の体は動きやすいように、各部位が自由に動くようにできているものである。しかし、武道の技をつかうに際してはこれでは技にならないので、各部位を一本の鉄棒のようにしてつかわなければ、強い力は出ないのである。
それではどうすれば各部位を一本の鉄棒のようにすることが出来るかというと、各部位に力を込めるのである。力を込めれば込めるほど、関節は繋がるし、遠くの関節に繋がるのである。十分に力を込めれば、最終的には手先、腕。二の腕、肩、胸、腰、そして腹に繋がるわけでる。
力を込めるためには、息で体、体の部位を縦横に伸ばし、拡げることである。

これまでの“強い力”は魄の力である。この力は、所謂、気の力、魂の力であると考える。魄の力は己の力である。気の力、魂の力は己の力を土台にした、その上(表)に現われる己以外の力であると自覚する。例えば、受けの相手が力を籠めれば籠めるほど自ら浮き上がってしまうのは、こちらの力ではなく、相手の力によるものである。

これで魄の力からの脱出が出来ると考えている。