【第796回】 高齢者の肉体的な進化

80歳の傘寿になって数か月が経つ。傘寿になったら、これまでのはなったれ小僧から一人前にならなければならないと思っていた。そのためには、精神面での心や頭だけでなく、肉体的な身体や体力が進化しなければならないと思っている。年を取っても精神面の進化が可能であることは想像できるし、可能だとも思うが、肉体的な進化に関してはあまり自信がなかった。人は年を取れば体が衰え、体力がなくなっていくのが通常だからである。故に、年を取っていってもできる事は、己の肉体を如何に健全に維持するかということになると思った。しかし、これでは進化にならない。

自分が年を取って分かった事はいろいろある。これまで思うように働いてくれていた体が思うように動いてくれなくなるのである。朝起き上がる時、頭がくらくらしたり、歩く際に体がふらついたり、ズボンをぬいたり、穿いたりする時に体重を支えられずにふらついたりするのである。また、合気道の道場稽古でも頭がくらくらして受けが取れないとか、自分の体重を足で支えられないとかである。

このような時期は誰にでも来るのではないかと思う。ここで大事な事は、この老化の事実を認める事である。この事実を真摯に受け止めるのである。そうしないと、この問題は解決されないからである。この事実を認めることによって、どうすればこの問題から脱却できるのかの挑戦が始まることになるはずである。
これらの問題と解決法は以前に書いているので詳しくは書かないが、お陰でこれらの問題は解決したようなのである。このために、食事や運動や睡眠に気を付けたり、また、アルコール飲料を飲まなくなったのである。
 
まあまあの肉体的な健康状態に戻ったわけだが、これでは肉体的な進化になっておらず、もとの状態に戻ったに過ぎない。
これまで以上の進化がなければならない。
若い頃から、私の体形は痩せ型で軽量であった。技の稽古をする上でも、もう少し体重が欲しいと長年願い、努力も多少してきたつもりであるが、体重はほぼ変わらなかった。
しかし、傘寿になってようやくこの望みが叶ったのである。始め2kgほど増え、今ではそのまた3,4kg増えているのである。また、感じとしては、もう少し増えるような気がしている。肉体的な進化をすることになったのである。

高齢者でも肉体的な進化はあるということである。体重が増えたことによって、食欲は増した。以前は、外食での一人前を完食するのが苦しかったが、今やどの店にいっても、ぺろりと食べてしまう。外食での一人前の量は若者を基準としているはずなので、一人前を食べられるという事は若者なみということになるだろう。お陰で睡眠もよくとれるようになったし、また、道場稽古での技と体の動きもよくなった。やはり望んでいた体重の増加は有難い。

この長年望んでいた体重の増加が何故、突然に実現したかということである。自分自身でも驚いている。しかし、今思えば、それには理由と偶然の必然性があったのである。長年合気道を修業し、多くの貴重な教えを受けているからである。
勿論、それは合気道の稽古と研究によるものである。
どうして体重が増えたかを簡単に言えば、“息で胸を開き、体を拡げる”ようになったことである。
これまでは、息も体重も天地の縦だけにつかっていた。これを横にもつかうようにしたのである。
この横のつかい方を、誰にでも出来るような簡単な説明にすると、立った状態で、息を吐き腹を絞り、そしてその絞った腹を緩めると息が腹から胸に上がってくる。そうするとそれまでの吐いていた息が引く息(吸う)に変わり、胸(胸鎖関節)のところで横に拡がる。この横に拡がる息に合わせて胸を開く、そして体を横・縦(上下)・前後・左右に拡げるのである。
これをもっと簡単にやるのなら、ウーと息を吐いて、エーと息を引いて、胸、そして全身を開けばいい。
この息づかいは、合気道での布斗麻邇御霊の運化と同じなので、宇宙の条理に合致しているはずである。
尚、一般的に、胸が開いている人は、胸板も厚く、体もしっかりし、体重もあるとみている。

尚、年を取ってくると、靴下やズボンを履く時、ふらつくことが多くなるが。この胸を横に拡げ・開き、そして足を横に拡げると、足がしっかり地に着き、体が安定してふらつかなくなる。