【第791回】 92歳の多田宏先生の演武

合気道を始めてから多くの素晴らしい先生方に教えていただいたが、大先生をはじめほとんどの先生方が亡くなってしまわれた。唯一、ご健在で合気道を教えておられるのは多田宏先生である。
多田先生は私が入門初日に教わった先生である。入門手続きをした後、稽古を見ていた私のところに来られて、よかったら稽古をしないかと云われたのである。稽古をするといっても道着は持っていない。普段着で夏の猛暑の中、汗だくで転換運動、受け身の稽古をしたのを思い出す。毎週、木曜日の先生の稽古には毎回、それも2時間稽古をした。ドイツに数年間滞在していた時は、先生の2週間に亘る、イタリアでの夏の合気道講習会に参加させて頂いた。また、帰国してからは、道場の外でも、気の稽古などの特別稽古をやられておられたので参加もした。

近年は、先生は本部道場で教えておられないので、毎年、ホテルでの賀詞交換会でお会いし、お話させて頂くのを楽しみにしている。また、毎年の全国合気道演武大会の先生の演武を楽しみにしている。
今年は新型コロナで演武大会は見に行くことは出来なかったが、先生の演武をホームページで見る事ができた。

多田先生の演武は例年通り、道主の最後の演武の前であった。道主とはまた違った役割と責任を負われていることを意識されている事をひしひしと感じた。
しかし、多田先生の演武は今回も素晴らしかった。体は手先、指先、頭まで気で満ち、強い魄力、気力を感じる。とりわけ気力はますます強くなっているように見えた。

先生の今回の演武を拝見して思ったことは、まず、己は取り敢えず90歳まで元気で稽古ができるようにすること、次に、90歳でもこの先生のような演武が出来るような技づかい、体づかいができるようにすることである。また、そのためには、先生のように、魄が多少衰えても、気(魂)がそれをカバーしそれ以上の力が出るようにしなければならないということである。

私は80歳になって喜んでいたが、多田先生の気魄のこもった演武を拝見して、まだまだ頑張らなければならないと喝を入れた次第である。
先生の増々のご発展とご健康をお祈り申し上げるとともに、我々合気道家を引き続き導いて下さることをお願いする次第です。