【第78回】 ヒーローに挑戦

合気道には試合がなく、勝ち負けの勝負はない。しかし自分の目標に向かって上達しなければならないので、常に自分との戦い、勝負となる。厳しくやろうとすれば、ある意味では自分に打ち勝っていくより、相手を負かす方がやさしいかも知れない。だが試合や勝負がないと人はどうしても気を抜いた修練をしがちである。どうも人間のDNAには、少しでも楽な方に行こうとする遺伝子が入っているようだ。

楽な稽古をしていると、弱い相手ややり易い相手には技が効くが、大きい相手や腕力のある相手には効かなくなってくる。自分の弟子は自由に投げたり押さえたりできても、全然知らない人に通用するのかと首を傾げたくなるような人もいるようだ。

故有川定輝師範は厳しい先生だったが、自分にも相当厳しかったように思われる。かって有川師範は、「〇〇さんは強いと言われているが、力道山(カラテチョップで有名だったプロレスラー)にその技が効くのかな?」と言われるのを何度か耳にした。ということは有川師範は、ご自身が力道山も倒せるように技の鍛錬、工夫をされていたということだろう。力道山は先生にとってヒーローだったのかも知れない。先生にとってのヒーローとは、イメージ上の挑戦相手であり、自分の技やこのやり方は通用するのかを試すイメージトレーニング上の最高の稽古相手だったといえよう。

合気道を上達しようと思えば、弱い者ややりやすい相手を考えるのではなく、超一流の人物から自分のヒーローをつくり、そのヒローに通用するように技を鍛錬するのもいいだろう。プロレスラー、ボクサー、相撲取り、サッカー選手、野球選手などからヒーローをつくり、そのヒーローにその技ややり方が通用するように研究し、練磨するのである。一生戦えるヒーローを見つけられれば幸せである。