【第773回】 わしの剣には宇宙が入っている

過って大先生が我々が稽古していた道場に木刀を持って入ってこられ、剣の形を見せて下さったり、剣の舞を見せて下さったり、また、木剣を若い内弟子に押させてもびくともしないことを見せて下さった。尋常でない強さと美しさに感銘したが、一つ分からなかったことがあった。
それは、大先生は手にある木刀を我々に示し、「わしのこの剣には宇宙が入っている」と言われていたのである。大先生からこの言葉は数回聞いていたが意味がまったく分からなかった。

当時は大先生の言われることは難しく、分からないのが当然だと思っていたのと、当時は合気道の思想や哲学より実践の稽古に興味があったので、その分からない言葉をこれまでそのままにしておいた。

あれから50年ほど経ってきて、ようやく理合いの稽古をしなければならないことがわかってきた。すると過っての大先生の教えの言葉を思い出すようになり、少しずつその意味が分かるようになってきた。また、『合気神髄』『武産合気』も少しずつ理解できるようになってきたのである。

さて、「わしのこの剣には宇宙が入っている」である。私たちが大先生から直接お聞きしたのであるが、これに関係することは『合気神髄』『武産合気』にも載っている。
例えば、「植芝の武産合気は、この木刀一振にも宇宙の妙精を悉く吸収するのです。この一剣に宇宙も吸収されているのです」です。
この意味が分かるのは次の教えに見る事ができるだろう。
「己を宇宙の動きと調和させ、己を宇宙そのものと一致させることにある。合気道の極意を会得した者は、宇宙がその腹中にあり「我は即ち宇宙」なのである」

これまでこの両方の教えの文は何度も目にしてきたのだが、まだ、「わしのこの剣には宇宙が入っている」の意味は分からなかった。これが分かったのは、布斗麻邇御霊を知ったからである。
布斗麻邇御霊は宇宙の生成から完成までの営みの教えであるからである。すべての万有万物、身体、また、合気道の技もこの布斗麻邇御霊に則ってやらなければならないといわれるからである。
つまり、この布斗麻邇御霊で剣をつかい、技をつかうことになれば、それは
宇宙の動きと調和し、宇宙そのものと一致することになり、宇宙の営みということになり、宇宙が入っていることになり、宇宙そのものになるわけである。これが合気道の修業目的である“宇宙との一体化”である。
それを大先生はやられておられたということである。