【第771回】 力、腕力から気魂力へ

前から書いているように、合気道では力をつかわないとか、力が要らない等と誤解している稽古人が多いし、そこまでではないにしろ、力を軽視しているように見える。
力は大事なのである。強力であればあるほどいいのである。大先生は「合気道は無限の力を体得することです。」と言われている。

力を強力にし、無限にするのは容易ではない。そのためには、先ず、“力”にはどのような力があるのかを知らなければならない。次に、それらの力を一つずつ身につけて積み重ねていかなければならない。つまり、各々の力を順繰りに身につけていくという事である。これを次に説明したいと思う。大先生が『合気神髄』『武産合気』で使われている“力”を抽出し、部分的に私見をいれたものである。
まず、「“力”にはどのような力があるのか」である。
腕力、魄力、己の力、人間の力、阿吽の力、気力、気魂力、魂の力、無限の力、愛の力、宇宙の力(八力、引力、動力)等

次は、これらの力を身につけていくためには、どのような順序になるかということである。初めの段階は、誰もがやり、経験しているはずなので分かるだろう。
しかし、多くはここで留まり終わってしまっているので、大先生が言われる力が出せないでいると考える。

これらの力をつける順序と段階である。

  1. 初めは誰もが技をつかう際に腕力や体力という力をつかう。最も自然でやり易いからである。ここにも段階がある。
    1-1 腕だけからの力
    1-2 腕と腰腹を結び腰腹で腕をつかって生じる力

    これを魄力という。魄力をつけることも必要であるが、これに留まっていては駄目なのである。大先生は、「魄力でやってゆく国は、最後は上手くゆかない。阿吽の呼吸でやってゆくこと、あくまで魂を表に出すことである。(武産合気 P.103)」と言われている。国を技に換えればよく分かるだろう。
    この魄力を上記の力では、腕力、己の力、人間の力であると云っていいだろう。この力を養成したならば、次に進まなければならない。
  2. そしてこれに若干、宇宙の営みを加わえた力を養成するのである。
    陰陽十字の宇宙の法則でやって出てくる力である。陰陽十字に手、足、体をつかうと、それまで以上の力が出てくるのである。
  3. 次は、呼吸によって出たり、増強される力、阿吽の呼吸の力である。
    初めは阿吽の呼吸は難しいはずだから、まずはイクムスビの呼吸で技と体をつかうといいだろう。最初は、呼吸に合わせて体と技をつかうが、慣れてくれば、呼吸(イクムスビ、阿吽の呼吸)で体と技をつかえるようになる。つまり、息で技をつかうということである。この阿吽の呼吸の阿吽の力は想像を絶するものであるようだ。有川定輝先生は、「合気道は、シンプルである」と言われていたが、阿吽の一瞬の呼吸で技を極めてしまう事が出来るということだと思う。
  4. 次は気力である。体と技を陰陽十字と呼吸でつかえるようになると、気力という力が出るようになる。手と息を横、縦につかい、そして縦、横、縦の十字に息をつかうと気が手首から、手先、そして肩、胸鎖関節、腹が気で満ち、気が流れる。足も同じであり、全身が気で満ちることになる。
    この気が気力である。
    しかし、この気力は魄力である。大先生はこれを、「魄の世界は有形であります。ものの霊を魄といいますが、これは気力といいます」と言われているからである。つまり、魄力=ものの霊の力=気力となる。
    以前は、気力は気の力だから魄の力ではなく、魂の力のはずだと思っていたが違っていた。そして最近、気力は確かに魄の力であり、魂の力ではないことを実感した。気力と気の力は違うということである。
  5. 気力を上記の例で言えば、腕力をつかうために気を満たし、気を流すという、腕力が上で気が下ということになる。気の力はこれが返り、気が上で腕力が下ということになるだろう。
    少し魂の力に近づいたわけである。これを大先生は、気魂力と言われているのではないかと思う。魂に近い働きをする気の力である。
    ここから気の力、気で技をつかうことになるのだろう。そして、
  6. 魂の力が生まれることになるのだろう。魂の力は、無限の力、愛の力、宇宙の力(八力、引力、動力)となるわけであり、これが合気道が求める力である。これを大先生は、「合気は魂の力です。これを修業しなければなりません。」(合気神髄p102)と教えておられる。
力だけでもやることが沢山あるし、やらねばならないことがあるのである。