【第769回】 陽極まりて陰となり、陰極まりて陽になる

「第767回 十字で手をつかい、手をつくる」で書いたように、手を縦横の十字でつかうようにすると、大分上手く技が効くようになる。己の心も体も喜んでくれるし、受けの相手も納得するようである。 しかし、受けの相手が思い切り力を込めて掴んできたり、打ってくる場合など、一寸の隙ができると動きが止まったり返されてしまい、十字の手にならず技にならないのである。これを一般的には力不足というが、力が足りないだけでなく別の要因があることが分かった。 それは宇宙の営みに則った十分な十字の手づかいが出来ていないことである。 十分な十字の手づかいというのは、手や手先に力と気が満ち流れる事と縦から横、横から縦に返す際、切れ目なく変換することである。 そのためには、力と気と息を上手くつかわなければならない。宇宙の営みでつかうのである。それを一言で云えば、「陽極まりて陰となり、陰極まりて陽になる」ということである。 それでは実際の技の稽古で、手をどのようにつかえばいいのかということになる。片手取り呼吸法の例で説明する。

  1. 下ろしている手を腹の前に上げ、手先に気と力を息を吐きながら流す。ここから更に気と力を手先に流すと、息と気が手先に入り満たされ、そして満たされると、それまで出していた息と気が返り、引くのに変わる。
    これが「陽極まりて陰となり」である。そして、
  2. 手の平が横に拡がる。親指と小指を息を引きながら極限まで広げたところで、引く息が出す息と気に代わり、自然と気と力が指先の方向に流れる。これが「陰極まりて陽になる」である。
  3. 指先に気と力が極限まで流れると、気と力は指先と反対の肘の方向にも流れ、強固な十字の手になる。
これでも分かるように、極限まで伸ばさなければ十字になりにくい。気も力も入れないで、只手を十字につかおうとしても、隙の無い軌跡も十分な力も出ないことはやってみれば分かる。 極限まで伸ばすと自動的に縦横の十字に変わるのである。頭で考えなくとも自然に変わってくれるのである。これが宇宙の営みに近づいた動きであるはずである。宇宙の力と言ってもいいかもしれない。だから、相手も納得してくれるのである。