【第766回】 手から気を出す

技を練って精進していく合気道では、はじめは体力や腕力の魄力の技(物の技)であるが、稽古を積み重ねていくうちに、魄力の技では力が十分ではないことが分かってくる。十分出ないのは力の強さと健やかさである。健やかさとは、相手も己自身も心地よい力ということであろう。そして物の技の力より強く、健やかな力をつくり出すことの必要性を実感する。それを大先生は、「物の技は力少なし、武の魂魄阿吽をもって自己の妙、明らかなる健やかなる力をつくることこそ合気の道である。」(合気神髄 P.160)と教えておられる。

それでは魄力より強く、健やかな力は何かという事になるが、それを大先生は、「気の修行修練は須佐之男大神とであり、力の大王ともなり、武道の大王ともなるのである。」(合気神髄 P151)と、それは”気“であると言われておられる。
そして、力の大王の気を生み出すためには、「水火結んで縦横となす、縦横の神業。自然に起きる気。気はすべての大王である。」(合気神髄P151)と縦横十字の神業からであると教えておられるのである。

次に、手から気を出す方法を書く。

  1. お腹の前に手を出す
  2. 息をお腹で吸いながら手先を伸ばす。縦の力が出る。息は阿吽の呼吸である。2〜4まで阿吽のアで息を引いて(吸って)行うのである。
  3. 引き続き息を吸いながら手先を伸ばしたまま、親指と小指を外側に力一杯伸ばす。手の平が拡げる。横の力が出る。 
  4. 更に息を吸いながら、更に手先を力一杯伸ばす。更に縦の力が手先の方に出るのに相応してその縦の力が肘、肩に流れる。
これで手が十字になり手先から気が出る。例えば、諸手取呼吸法で相手に手をがっちりと掴まれた場合、よほどの力の差がなければ、腕力では掴まれている手さえ上がらないし、相手を制することも導くこともできないはずである。多くの稽古人がここで対峙し、悩んでいる問題である。
腕力ではなく、気を生み出してつかうことである。十分な気が出れば相手は浮き上がり、力が消えてしまうのである。気の強力な大王の力、相手も納得させる健やかな力を実感するはずである。

また、戦国期には馬上で大太刀や棍棒を振りまわして敵に脳震盪を起こさせたというが、相当の力がいったわけであるが、その力の出る秘訣はこの十字の手で気を出して、気をつかったからだと思う。それは鍛錬棒や剣をこの①−?で振ってみれば分かる。