【第762回】 技と性

技を練って合気道を精進しているが、容易ではない。はじめの内は、稽古を続けて行くうちに上達していくものと思い、随分と稽古をしたつもりだが、上達もある程度の所までで、そこからの上達は止まってしまった。そして大分悩んで、考えた結果、ようやく最近になって技を上達させるためにはやるべき事があり、それをやって行かなければならない事がわかった。
そこでやるべきこととは何かを考えると、それは合気道を創られた大先生の教えであることが分かった。大先生からお聞きした教えやその教えが書かれた『武産合気』『合気神髄』にある教えである。
そこで大先生からお聞きした教えを思い出し、そして『武産合気』『合気神髄』の教えを研究し、それを会得するように心がけているのである。
大先生は、技が上達するために多様な教えを残して下さっているのである。しかしながら、その教えを理解、会得するのは容易ではないのは周知の通りである。理解するためには、ある程度の技のレベルに達する事と稽古が目に見える次元から見えない次元へ入っていく必要があることであると思っている。

技が上達するための大先生の教えの一つに、「真空の気と空の気を、性と業とに結び合わせ、喰い入り乍ら技の上に科学を以て錬磨する」がある。この教えは、大先生の道話で直にお聞きしていたし、両書にも載っている。
この教えの意味は難しく、長年考え続けてきた。これまでは“気”というものが良く分からなかったのに加え、“性と技の”“性“が分からなかったからである。

今でも良くは分からないが、今のところ自分なりに次の様に解釈している。
気とは、幽の体であるから、神のような幽の幽と違い、目には見えないが体があり、働きがあるはずである。有川定輝先生が、気は宇宙生命力であると云われているように、気は生命力であり、エネルギーであると思う。

次は、“真空の気と空の気”である。真空の気とは、目に見えないモノからの気であり、空の気とは、目に見えるモノからの気だと考える。真空の気には宇宙や天からのエネルギー・力、空の気には大地の気、山や森林、そして人間などの森羅万象の気である。有川先生は、この“真空の気と空の気”を合わせて宇宙生命力と云われておられると考える。

そしてもう一つ、気を結びつける“性と技の”“性“である。
気を技に結びつけないといい技は生まれないということは容易に分かる。ここで最初に気に結びつける技とは、宇宙の法則であり、これから生まれる技が上手の技である。
問題は、“性”である。
まず、辞書で調べてみると、性とは、人が生まれながらに持っているもの。生まれつきの性質。持って生まれた性分、ならわし、ならい、習慣(大辞林)。人間に生まれながらに備わっている心(漢和辞典)とある。
分かったようで、はっきりしない。
そこでこの“性”を別な角度から見れば分かり易いかもしれないと思ったのである。それは、“性”がつかう技は一人として同じではないし、技をつかう“性”も多種多様であるという事である。これまで多くの素晴らしい先生方に合気道を教わってきたが、どの先生の技づかいも体形も考え方も違っておられ、非常に個性的であった。

このことから“性”とは、生まれながらに備わった個性的、精神的及び肉体的な個人であるとした。従って、気が結ぶのは宇宙の法則に則った技と個性的な個人ということになる。
思い返してみると、大先生も有川先生も素晴らしい技づかいをされていた。美しさと武道的な強さが完璧に備わっていたわけであるが、それは法則に反しない技づかいによる無駄のない美しさと、個性的な迫力に依るものであったということになる。

故に、技が上達するためには、宇宙の法則を少しでも多く、また深く身につけることと、そして個性を磨く事になる。真善美である。これが合気道は、真善美の探究であるとも云われる所以であると思う。
合気道は個性的な人間をつくるということである。