【第761回】 イクムスビから天地の呼吸による柔軟体操

道場での稽古初めに準備体操がある。その内容や長さはその時の指導者によって異なる。数分で終わる場合もあるし、一時間の稽古時間の内20分もやられた先生もおられた。因みに、大先生がご健在だった頃は、どの先生も今の様な準備体操など行わない場合が多く、転換法や呼吸法が準備体操の代わりをしていた。
あれから世相が変わり、忙しく働いたり、勉学に励んだ後に道場に来て稽古をするわけだから、先ず固まっている身も心も解きほぐさなければならないことになる。その為には稽古の前の準備体操が必要であり、大事になるだろう。

準備体操の内容と目的は多々あるが、そのメインになるものは柔軟体操だと考える。体と体の部位を柔軟にする体操である。誰でもすぐに出来る容易な体操である。
しかし、余りに容易に出来てしまうので、疑問を持たず、余り考えずにそれをやり続けてしまうのである。体が柔軟な若い内は問題なくその柔軟体操を続けることが出来るが、高齢になって体や筋肉が硬くなってくると、それまでのように、思うように出来なくなる。外から見ていると、多くの稽古人は、それを年のせいと体が硬いせいだと諦めているように思える。

しかし、年のせいや体が硬いせいにして、体が硬いので柔軟体操もままならないので仕方がないと思うのはまだ早い。柔軟体操で体を柔軟にすることはまだまだできるからである。
その為には、やるべき事がある。やるべき事とは、合気道の教えであり、宇宙の法則でやる事ある。これも合気道を学ぶ事であり、稽古・修業であると考える。

周りの柔軟体操のやり方を見ていると、例えば、開脚で胸を床につける体操をする場合、ほとんどの人が息を吐いて、又は吐きながら胸を床に落としている。私自身もはじめは吐いてやっていたのでよく分かる。脚や胸の筋肉を鍛えるにはいいだろうが、柔軟にはならない。何故なら、息を吐くと体は固まるようにできているからである。これを続ければ決して体は柔軟にならないし、体を壊すことになるはずである。

それではどうするかというと、合気道の教えである「イクムスビ」のイクムの息づかいで柔軟体操をするのである。イーと息を吐いて胸を落ちるところまで落としたら、次にそこから息をクーと体いっぱい吸う(引く)、そして吸い終わったところで、息をムーで吐き切り更に落とすのである。
このイクムスビの息づかいで、手先の指関節から手首、肘、肩、胸鎖関節、また足先から足首、膝、腰、腹までの関節及び筋肉の柔軟体操ができる。つまり、思った箇所を柔軟にできるということである。また、この息づかいで技をつかう事によっても体と体の関連部位が柔軟になる。
これはこれまで書いてきたことであるが、その次の段階がある。

三番目は、天地の呼吸に合わせた柔軟体操である。前出しの例の開脚で胸を床につける体操で説明する。①天の息を腹に落す。天の息は吐く息であり、まるい(○)水と言われるからやさしく吐いて胸を落とす。②そこで息を吐き切ると息と気が腹に戻って来て腹に気が満ちるから、そこで息を引いて更に胸を落とす(地の息)。すると気が腹から足と上体の両方向(地と天)に流れ、体中が気で満ち体は柔軟になる。③腹と体に満ちた息と気を吐いて胸を更に床につけるように落とせばいい。
この柔軟体操なら誰でも出来るし、合気道だけではなく、他の武道やスポーツでも出来るし、つかえばいいと思う。

天地の呼吸に合わせた柔軟体操は難しいから、先ずはイクムスビでやってみればいいだろう。これが出来るようになれば、体が柔軟になるだけではなく、技も効くようになる。例えば、二教裏はこの柔軟体操での天地の呼吸でやるとよく効くはずである。