【第760回】 腹を十字に

正面打ち一教は本当に難しい。何とか有川先生のように出来るように、少しでも先生の正面打ち一教に近づくべく試行錯誤している。
これまでいろいろな法則を見つけて、それでやってきているのだが、上手くいかないということは、つかうべき法則が欠けているか、不十分なつかい方であるかにあるはずである。

今回見つけた法則は、腹の十字の返しである。合気道の技の法則、つまり体のつかい方の法則の基本は陰陽十字である。これまで手や足を陰陽、そして十字につかうようにしてきた。お陰で正面打ち一教も大分上手く掛かるようになってきた。しかし、相手に力一杯打ち込まれたり、思い切り頑張られると中々上手くいかないのである。相手がどんな打ち方をしてきても、また、どんなに頑張っても出来るようにならなければならないので、更に研究した。そして腹が十分に働いていないことに気がついたのである。
腹が十分に働いていないとは、腹の力、腹からの力が相手に十分伝わっていないということである。そこで何故、腹の力が十分に働かないのかを見てみると、腹が十分に十字に返っていないことが分かったのである。

腹は十字に直角に返すことが出来るのである。正面打ち一教も半身で構えるが、足の構えは撞木のTの字である。ここから腹を前足に直角に返すと、腹は十字の直角に返える事になる。そしてここで相手に腹を向けた相対の構えになり、相手が打ちこんでくる手と接する手先に腹の力が出るのである。この腹が十分に返らないと、十分な力が出ないのである。

しかし、腹はただ返そうと思っても十分に返らない。腹が十字の直角に返るためには息でやらなければならない。息を引いて(吸って)返すのである。人体の関節は260ほどあると言われているが、仕事によって、必要な関節がしっかり結びついたり、離れたりしている。これが無ければ人体は案山子のようにつっぱったり、蛸や烏賊のようなものになるはずである。
この結び付けたり、離したりするスイッチが息ということになる。息を吐いた時は、関連関節が結びつき、息を引いた(吸った)時は、関連関節を引き離すのである。腹の十字の直角もこの原理・法則によるのである。

息を吐いて足を固め、そして息を引いて腹を直角十字に返してやると、正面打ち一教が大分上手くいくようである。腹はやはり大事であることが改めて分かった次第である。