【第758回】 宇宙との一体化のために

合気道の稽古・修業の目標は宇宙との一体化である。修業によって己を宇宙と一体化するのである。そのために宇宙の営みを形にした技を身に付けるべく稽古しているのである。合気道の技は宇宙の条理・法則に則っているので、技を会得することによって宇宙の条理・法則が身に付き満たされ、そして己が宇宙となるということなのである。

宇宙の法則で基本になるのは陰陽十字であろう。この法則が出来なければ合気道の技にならないはずだからである。また、この陰陽十字の法則をつかって体をつかい技を掛けると、自分以外の力、そして宇宙を感じるようになるはずだ。自分の意志からではない力やエネルギー(気)が出てくるのである。
宇宙の法則は陰陽十字の他、天地の呼吸、潮の干満等々と無限にあるようだ。
先ずは、宇宙の法則を一つづつ見つけ、身に付けていく事がこれからの稽古であると考える。

相対稽古で宇宙との一体化のために技をつかうが、まだ宇宙の営み・条理とは程遠い体の動きや技づかいになってしまうことが多い。こんな営みを宇宙はやっているわけがないと思う事が頻繁にあるのである。その理由は、相手がいるために相手を意識してしまい、力を入れ過ぎたり、動きを乱したりするためだと考えるし、また、このままでは、宇宙との一体化は難しいと思うのだ。

相対稽古での動きや技づかいはどうしても宇宙の営みに反しがちになり、つまり不自然になるのだが、それなら自然の動きにあるものに合わせて、体と技をつかうようにすればいいのではないかと考えた。
まず、己の中の自然な動きは何かということである。それは歩行である。人は一人で歩く際、技を掛ける時のように体を意識してつかわないものである。無意識で体が動き、歩を進めている。この無意識の歩行に、技をつかう際の体の動きを入れてしまい、技をつかうのである。

そう思って歩行をすると、これまで気がつかなかったモノが見えてくるのである。よく観察すれば、通常の歩行では法則に則った体のつかい方、息のつかい方をしているのがわかる。それは次の通りである。
一つ目は、足を進めると進めた足は地に着くが、その際、天からの息が腹を通って地に下り、そしてその息が腹に戻る。そして腹から息と力が足先の方とその反対の胸の方向に流れる。腹を中心に息と力が天と地に別れて流れるのである。慣れてくればこの息は気になるようである。この法則は片手取り呼吸法などで分かり易いだろう。尚、四股踏みではこの感覚がより分かり易い。
二つ目は、足を進めて踵から地につき、更に指の下の膨らんだ部位(指球とする)が地に着くと、足先や地の縦に流れる気と力が、息を引くと同時に横に流れ、足と体が横に広がることである。足そして体が縦と横の十字になるのである。
大きな力が地から湧き上がり、体は安定する。諸手取呼吸法はこれをつかわないと力負けしてしまう。
三つ目は、二つ目での指球で息を腹に入れた時、上記の二つ目で体が十字になり、そして指球を中心に体が十字に内側に返ることである。これで左右の足への重心移動がスムースにいくのである。この法則は片手取りの呼吸法や四方投げに取り入れやすいだろう。
四つ目は手である。肩から下に降りている手は、足が進む際、踵から指球までの息を腹から吐いている間、手は垂直のほぼ45度で、肩を中心にして前に上がっていき、指球で息が腹に入る時、手の平はほぼ90度になることである。正面打ち一教や呼吸法はこれをつかえばいい。
五つ目は腹である。腹は正中線に向き、前に進んでいることである。腹が進む方向に反して歩けば、怖いお兄さんの歩きになったり、酔っぱらいのよたり足になる。この腹の動きを上手くつかうと正面打ち一教は更に上手くいくようだ。

これは歩行を分解したものであるが、実際にはこれらすべてが同時に統合されて機能している。

上記の、どれも日常の歩行で、無意識で自然につかっている動きである。これを技の稽古でつかうのである。そのために、先ずは日常の歩行を一度意識してみなければならない。そして上記の五つ、いやそれ以上の法則が歩行にあることを見つけ、実感する事である。そして実感した歩行の法則に、己の相対稽古での技に組み込んでいくのである。
これによって、日常の歩行が宇宙の法則にあること、そしてそれを取り入れた技と体が宇宙と一体化していくことを実感できるものと考えている。