【第756回】 ふくらはぎをつかう

今年の夏の猛暑はこれまでにないような厳しさで、道場稽古も大変だった。息が苦しくなったり、体が上手く働かくなったり、ふらついたりした。これまでにないことである。これも暑さのせいと年のせいだろうと思ったが、この猛暑の夏を何とか乗り越えなければならないと思っていた。
ある日、街を歩いていて高齢者が目の前をゆっくり進んでいるのが目に入った。だが、その歩き方が骨で歩いているように見えたのである。そこで周りの若者の歩き方を見て比較してみると、若者は筋肉で歩いているように見えるのである。
そこで自分の歩き方や道場での足のつかい方を思い返してみると、最近の自分の足の進め方もどちらかというと骨であることがわかったのである。つまり、高齢者の骨歩きの足をつかっていたことによって、この夏の稽古で疲れが出たり、体が思うように動かなくなったということである。

そこで道場稽古で、意識して骨ではなく筋肉で歩を進めるようにしてみた。すると猛暑でも疲れないし、体がこれまで以上に動いてくれたのである。それでこの考えは間違っていないはずだと思ったが、何故そうなのかを調べてみた。

足を筋肉で歩くとは、足の筋肉をつかうという事であり、その足の筋肉とはふくらはぎの事である。ふくらはぎは足の筋肉の中でも、一番下の方にあって、大きな筋肉である。この筋肉の働きによって、血液を心臓に戻すのである。つまり、このふくらはぎの筋肉が働かなければ、心臓から出てくる血液は心臓にスムースに戻る事ができなくなり滞り、体調が悪くなるわけである。それ故、このふくらはぎは「第二の心臓」と呼ばれるという。
因みに、高齢者などの棒歩きの場合は、ふくらはぎの筋肉をつかわないことになるので、上手く歩けないだけでなく、血液の循環も悪くなることになる。

次に、合気道の技の稽古で、このふくらはぎをどのようにつかえばいいのかということである。
ふくらはぎを有能なポンプとして働いてもらうためには、体づかいと息づかいが重要である。合気道の教えにしたがい、宇宙の営み・法則に合わせてやらなければならない。それは陰陽十字と天地の呼吸である。
まず、一般的な歩行である。左右の足は右、左、右、左・・と陰、陽、陰、陽・・とつかう。踵から地に着き爪先下の膨らんだ指球に体重を落とし、腰腹が横の十字に移動し、そして他方の足の踵を着き・・を繰り返す。
呼吸は基本的には、足が地に着く時は吐き、足を上げる時は吸う。
骨ではなく筋肉で歩いているように歩くのである。そのためにはふくらはぎで歩かなければならないことになる。

合気道の技づかいにおける足づかい、ふくらはぎづかいである。
左右の足を右、左、右、左・・と陰、陽、陰、陽・・とつかうのは同じで変わらない。一寸違うのは、体重を踵から小指球、母指球に移動する(あおる)ことである。横の十字の動きである。これをふくらはぎを意識してやればいい。
次に一般的な歩行にはあまり必要ないが、合気道では息づかいが大事である。天地の呼吸に合わせる呼吸である。
一方の踵、足底に息を吐いて体重を落としふくらはぎを収縮させ(天の呼吸)、そして続いて息を引き乍ら(吸いながら)ふくらはぎを膨張させ、(地の呼吸)、最後に天の呼吸で息を吐いてふくらはぎを締める。ふくらはぎで体(例えば、手)をつかい、技をつかうということになるから、ふくらはぎは鍛えられるはずである。特に、諸手取呼吸法は天地の呼吸とふくらはぎを駆使しなければ中々難しいはずである。
因みに、天の呼吸とは吐く息、○、水であり、地の呼吸とは引く息、□、火である。吐く天の呼吸と引く地の呼吸とは十字である。

ふくらはぎが活性化すると、血液だけでなく気や力が全身に流れ満ちて元気が出るし、猛暑にも耐えられるようになるようだ。