【第755回】 □の火の地の呼吸で

呼吸法を自主稽古で出来るだけやるようにしている。本腰を入れてやるようになってから20年ぐらいやっていることになろう。長年稽古をしているので、大体の稽古相手には上手く掛かるようになってきた。
しかし、最近、時として上手くいかない事があるようになった。何度も稽古をしている相手に、諸手取呼吸法で思いっきり頑張られたりすると力んでしまったりして上手く出来ないことがあるのである。相手も上達していて、手足や体のつかい方や息づかいを読まれたり、身につけられ、同格になってきたのである。同格で技をつかっても、力は拮抗するから争いになり、いい技が生まれない事になるわけである。

このような拮抗の均衡を破らなければ先に進むことができない。そのためには技の“質”を変えなければならない。どのように変えるかというと、これまでの自分の力から自分以外の力をお借りした技づかいをすることである。
これまでは陰陽十字の体づかい・技づかいやイクムスビの息づかいなどの法則を己の心体に取れ入れ、そしてその己の心体を駆使して技を生み出していたわけだが、今度は自分以外の力をつかわしてもらうのである。自分以外の力とは天地の力であり、宇宙の力である。

今回は、苦労している諸手取呼吸法のために、天地の呼吸、特に地の呼吸のお力をお借りすることにしたのである。何故ならば、この地の呼吸は大きな力を産み出してくれ、己だけの力より遥かに大きな力だからである。
地の呼吸は、引く息であり、火であり、□(四角)であると大先生は教えておられる。諸手取呼吸法で、息を思いっ切り体中に引き込むと、地から強力な力・エネルギー(気)が体中に流れ込み、そして手も足も体も気で満ちる。□になった感覚になる。この地の呼吸で技と体をつかうと、これまでは己の力だけででやっていたこと、そしてそれによって同じ人間である相手とぶつかっていた事がわかるのである。

地の呼吸をつかうためには、天の呼吸が必要であるが、天の呼吸からはじめなければならない。天の呼吸と地の呼吸の交流があってはじめて技が生まれるのである。これを大先生は、「天の呼吸との交流なくして地動かず、ものを生み出すのも天地の呼吸によるものである」と云われているのである。“もの”を技に代えればいい。

また、大先生は、天地の呼吸を、「息を出す折には丸く息をはき、ひく折には四角になる。・・・・丸くはくことは丁度水の形をし、四角は火の形を示すのであります。丸は天の呼吸を示し、四角は地の呼吸を示す」と教えておられるのである。

この大先生の教えに従わなければいい技は生まれない。その典型的な例は「二教裏」である。初心者のほとんどが息を吐きながらこの二教裏を極めようとしているが極まらないのは、天の呼吸の吐く息で極めようとしているからである。地の呼吸の引く息、火の息でなければ極まらないのである。また、天の呼吸の吐く息が水で○という感覚も身につけなければならない。
勿論、諸手取呼吸法もこの地の呼吸を上手くつかわなければならない事になる。