【第754回】 大切な仕事、食べること

あと数か月で傘寿になるが、これから本格的な稽古をしていきたいと考えている。本格的な稽古というのは、ひと口に云えば、大人の稽古ということである。大人の稽古とは、合気道の教えに反しない稽古であり、宇宙の営み、宇宙の条理・法則に則る稽古ということである。これまでの人を相手にし、人を制し、人に負けないようにするための相対的な稽古ではなく、己を宇宙との一体化するため、またはそれに少しでも近づくべく、絶対的な稽古である。これは大人の稽古であるが小乗の稽古である。が、更にもう一つの大人の稽古をしなければならないと思っている。それは地上楽園建設のお手伝いである。地球や宇宙が少しでも楽園に近づくようにお手伝いする事である。大乗の稽古である。

このように大人の稽古をしなければならないと考えているが、それが出来るのか、どれだけ出来るのかが問題である。
それは高齢者、即ち、老人の抱える負の面にある。高齢者にならなければ分からない事、出来ない事があるというプラスの面がある一方、マイナスの面があるからである。大人の稽古をしようと思っても、その負の要因が邪魔をするのではないかという事である。

大人の稽古を邪魔する負の要因は、これまで書いてきたように沢山あるが、今回は食べること、食欲に的を絞ってみることにする。そのために、合気道界以外の方々の知恵を拝借したりして研究したいと思う。

年を取ってくると食欲が無くなり、そして食べる量が減る。そうすると体重は減り、体が萎み、皺だらけになり、そして筋力、体力が無くなってくる。
これでは合気道の大人の稽古は出来ないから、しっかり食べるようにしなければならない事になる。合気道の大人の稽古のために、食べることは大切な仕事ということになる。

食べることを大切な仕事にしているのは、体をつかう仕事をしている人たちにとって大事な事であるが、特に、相撲界ではそれが特に大事なようである。
「力士は食べることも大切な仕事だ。たくさん食べることを角界隠語で“えびすこ”というが、えびすこを決めよう(たくさん食べようという)」と云う、と稀勢の里(現荒磯親方)は朝日新聞2020.9.16で語っている。力士は多少無理をしてでも体をつくり、いい相撲がとれるために一生懸命に食べるのであり、それが力士の仕事になっているということである。
年を取って、食欲がなくなり、量が食べられなくなっても、己の目的のために必要な大事な仕事と思って食べるようにしなければならないということである。

しかし、まずい食べ物ではその仕事を果たしていくのは難しい。料理はうまくなければならない。先述の荒磯親方は、力士がえびすこを決めよう(たくさん食べよう)という時に、まずい料理では話にならない。だから相撲部屋の料理はすべてうまいのだと云われている。その典型的な料理が「ちゃんこ鍋」なのである。 

大切な仕事の食べることのために、少しでも美味しい料理を食べるようにすれば、食欲も湧き、そして沢山食べるようになるだろう。
食べることを大事な仕事と考えて、美味しいモノを沢山たべて、体を保持し、そして大人の稽古をしていきたいと考えている。