【第75回】 武器

合気道の道場では、剣、杖、短刀などの武器の振り方や使い方は教えない。合気道は他人を攻撃するものではないので、攻撃技となる剣や杖の稽古は道場ではやらないし、やれないのである。

だが、昇段試験には、太刀取り、杖取り、短刀取りがある。剣や杖が十分振れないのに、それを捌くことや取ることはできるはずがない。ということは昇段試験にある剣、杖、短刀は十分に使いこなせるように、道場外で自主稽古しなければならないことになる。開祖は野外稽古で剣や杖の稽古をされていたし、道場や演武会でも剣や杖を使って演武をされていた。(写真)しかし道場で教えてもらったことはないどころか、道場で剣や杖を振っているのを開祖に見つかったりすると大目玉をもらったものだ。

合気道の形には、手で掴みにくるものの他に剣、杖、短刀などの攻撃を想定したものがある。その形の原型は柔術時代にできたわけだが、時代も変われば人の考えや生き方も違ってくるので、形や技も現代風に変わってきているといえる。例えば正面打一教は、本来は相手が切ってくる太刀(正確には腕)を押さえ、取るものであるが、今の合気道の稽古では太刀をイメージしてやっている人はほとんどいないだろう。

合気道の形と技は剣の動きからきているとよく言われる。手と足が連動して動く、陰陽の動き、三角法で太刀に身を隠す、リズム(拍子)、体当たりと入身・転換などが挙げられるであろう。合気道の形で剣の動きを一人でも稽古ができるものに、剣先を回して相手の小手を打つ「小手うち」(合気道の形は相半身片手取り小手まわし)、入身で相手の側面に入り体を反転させ相手の太刀を切り下ろす(正面打ち入身)、相手の太刀を打ち下ろし自分の腹に吸収する(四教)などある。

合気道の稽古は基本的に体術であるが、本来は武器を想定したものであるから、それに対応するためにも武器を自由に、つまり理想的には自分の手足のように使えるようになるまで稽古をしなければならないだろう。そうすれば技の意味も分かるし、武器にたいする技も出来るようになる。また、体術だけでは不足しがちな、また十分できないような稽古も補足できる。例えば、勢いと拍子、手足を連動して陰陽に使う、肩を陰陽に使う、指や脇の締め等々である。

高段者になれば、武器の稽古も大いにやるべきであろう。但し剣道の形や杖道の形をやっても意味がない、合気道の体術につながっていなければ意味がない。合気の動きに武器を持てば、合気剣道、合気杖になるようでなければならない。